どこかに出かける時、あまり明確に予定を立てない。二年ほど前タイに行った時も、泊まっていたゲストハウスの部屋にこもりガンガンにクーラーをかけて、二日間ご飯を食べる時を除いては外出することもなく、ベッドに転がり、きっと昔、旅行者に置き捨てられたのだろう二十年まえの文芸春秋を読んだり、なぜか本棚に全巻そろっていたゴルゴ13を読むなどしていた。
一体高い金を出して異国の地に行き何をしているのか。それは自分でもなぞである。見知らぬ土地の雰囲気に浸っているのは好きなのだが、とにかくものぐさなので引きこもっているのも大好きなのだ。
今回もなんとなく広島に行って尾道を訪れようとおもっていたが、詳しいことは何も決めていなかった。すでに一度広島に来たことがあったのでどうにでもなるだろうと思っていたのだ。
春秋航空で成田から広島空港へと向かう。空港へ着くとついたらすぐ、尾道へと向かった。ものぐさはいかんなく発揮されゴールデンウィークであるにもかかわらず、出発の一日前までホテルをとっていなかった。仕方なく空きがあった山の上にあるホテルをとることにした。その名もビュウホテルセイザン。
城の右横にある白い建物がそれである。駅からタクシーで10分、歩けば20分ほどの距離にある。どことなく、村上春樹の「ダンス・ダンス・ダンス」にでてくる「いるかホテル」を彷彿させる。
このホテル、尾道で一番高いところにあり、そしてなぜか、タイ風のであることを高らかに謳っている。一体なぜこんな小高い山の上にポツンとタイ風ホテルがあるのか。これはおそらく尾道の中でもっとも大きな謎の一つと言って過言ではないだろう… ちなみにここのタイ料理はけっこううまいらしい。
内装もなんかちょっと変である。で、異国情緒漂う少し変なホテルが今回の宿泊施設になった。駅からスーツケースを担ぎ石段を上ること20分、チェックインを済ませ街に出ることにした。
尾道はいろいろなものでごった返していた。目まぐるしくいろいろなものが現れた。
山の上にはタイ風の謎ホテルが鎮座し……
山道にはこどもの日のためこいのぼりが泳ぎ…
巨大な石が転がり……
旅先で浮かれたらしい猫メイクの人々が跳梁跋扈し…
↓
商店街には昭和の息吹を残した謎の店が……
石田勉強堂
林ウバ車店
そんな感じで、神社とか石段とか石畳とか海とか山とか、それなりに色々なことを楽しみつつ1日目は終わっていった。ビュウホテルセイザンはビュウホテルと言っているだけあり、景色が最高であった。
夜
同行していたのがあまりお酒を飲まない二人だったので一人寂しく晩酌をした。よく家で一人で飲んでいるが、寝ている友人を横に一人で飲んでいるのは、それなりに孤独な作業である。そこまでして飲まなくてもいいじゃないかという最もな意見ももちろん頭に浮かんでくるのだが、まあ旅行先だし飲みたくもなるではないか。
アルコールのせいで眠りが浅かったのか、朝五時前に目が覚めた。カーテンを開けるとすばらしい景色が広がっていた。
夜明け前
日の出
この光景がすごかった。人生で見てきた日の出の中でも屈指の美しさであった。群青が徐々に橙色に飲み込まれていき、島と山の切れ間から太陽が覗く。街は静かで海はのどかに広がっていて、毎朝これを見ながら一日を始めることができたらどれだけ幸せなのだろうと思った。このホテル意外と最高なんじゃないか。ひとしきり感動をして、この謎のタイ風ホテルの固いベッドでふたたびとろんと眠りについた。