下北沢という街がある。サブカルチャーの代名詞として名前があがったりする街である。きっとそこには、右を見ても左を見ても、襟をだらんとさせたバンドマンが跳梁跋扈し、自意識がもくもくと立ち上がり、店々の窓ガラスに結露してへばりついているようなところなのだと思っていた。
私はサブカルチャーを愛してはいるものの、下北沢という魔境には立ち入ったことがなかった。そこはいうなれば、仏教徒にとってのルンビニ、故郷は遠くにありて思うもの、YAZAWAにとっての広島なのである。
今回の目的地は、なんと、下北沢はヴィレッジ・ヴァンガード。
サブカルの街のなかでも極めてサブカルな、サブカル・オブ・サブカルなヴィレッジ・ヴァンガードへ行くのだ。それは、キリスト教であれば、巡礼路を経て、サンティアゴ・デ・コンポステラへ向かうようなもの、YAZAWAをみに武道館へ行くようなものなのである。
南口に降り立つ。そこにはしゃがみこんだ男子学生がいた。うつろな目でボーっとしている。手にはタワレコの黄色い袋。これが、下北沢か!!下北沢の空気は人をうつろにさせるのだな……
友人を探すためにきょろきょろすると、あることに気が付いた。あれ、普通の人が多い…… コンビニにお金をおろしに行く。圧倒的に普通の若者が普通に買い物をしているのである。たしかに、サブカルっぽさがないわけでもないのだが、せいぜい年齢層の下がった渋谷程度のものである。どうやら、25年にわたり醸成されてきた下北沢というイメージは、偏見にまみれたものであることが明らかになったのである。
今回の目的は、吉澤嘉代子さんのチェキ会に行くことである。下北沢 が意外と普通の街であることが分かり、安心して友人を待った。彼は、吉澤嘉代子さんのツアーにも行っているなかなかのファンであり、きりっとしたイケメンでもあった。しばらくすると、彼はやってきた。久しぶりだね、なんていう通り一遍の会話をおこなった。我々は、等しく気がそれていたのだ、吉澤嘉代子さんに謁見するというその緊張によって。
「調べてたんだけど、ヴィレッジ・ヴァンガードすぐそこみたいだね」
「そうそう、ほんとに近いよ3分くらい。わりと近くに住んでるから任せて」
道は彼に任せて、街を歩いた。吉澤嘉代子さん待つヴィレッジバンガードはやたらと活気のある薬局の横にあった。
つづくかもしれない