今夜はいやほい

きゃりーぱみゅぱみゅの「原宿いやほい」のいやほいとは何か考察するブログ

赤羽界隈彷徨 プチモンド・フルーツサンドの憂鬱、

固定幅に植えられた街路樹が路面に影を落としている赤羽の午後、フルーツパーラープチモンドへ向かった。赤羽は雑多な街である。巨大な商店街、白煙が立ちのぼる飲み屋街シルクロード、群居する公団、高低差強めの街並み、歩いているととても楽しい空間だ。

プチモンドは駅から徒歩5分ほどのところにあった。大きな金木犀が店を覆うように生えていて店から漏れ出るフルーツの香りとあいまってとても甘やかであった。


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プチモンドには14時についた。しかし、店は真っ暗だった。あれ、なんでだ9時開店じゃなかったっけと友人と話していると、窓ガラスに14時30分より営業と手書き文字の張り紙がへばりついているのが目に入った。食べログ情報に惑わされたのか、店主が気まぐれなのかは知る由もないので、隣の文房具屋で30分便箋コーナーの前で沈思黙考し、ふたたびプチモンドへと戻った。

すると、店の前には、開店待ちの赤羽マダムが10人ほど列をなしていた。わずか30分の間に、赤羽マダムによって席は埋め尽くされようとしていたのだ。仕方なく列の最後尾に並び、開店を待った。僕たちは、ぎりぎり残っていたカウンターの空席に座ることができた。古い回転椅子は腰を掛けるとグググとくぐもった音を立てた。


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赤羽マダムたちは、高らかによもやま話に花を咲かせ始めた。カウンターでなんとなく肩身が狭い思いがした。店員のお姉さんに、フルーツサンドをくださいと告げた。この店は、フルーツサンドが名物なのである。


しばらくボーっとしていると、目の前でフルーツのカットが始まった。シュパシュパっとフルーツが切り分けられていく。このカウンターは特等席だったのである。調理をするおじいちゃんマスターの腰は長年の調理によりグイっと曲がっていた。腰のゆがみは店の歴史を感じさせた。


華麗な手さばきをじーっと眺めていると、マスターは、ふいに、かっと目を開き、飾り包丁のような要領で四方に皮をむいたぶどうの粒をこちらに向けた。見よ、これが、おれのテクニックだ、と言わんとする、ぎょっとした目つきであった。僕は、あまりにもいきなりの出来事だったので、息を飲むばかりで、何も反応することができなかったけれど、交し合った目線で、すごいぞマスターという意思をつたえたのである。


しばらく待っていると、フルーツサンドがやってきた。


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クリームの柔らかさ、果物の甘酸っぱさ、際立つパンの香り。なんて素敵な、フルーツサンド、特等のおいしさ!!あっという間に6切れを食べおえ、ゆっくりコーヒーをすする。


隣にも、マダムに囲まれて、肩身の狭そうな小太りな男性が座っていた。彼もフルーツサンドを無心の表情でむさぼっていた。僕は、テレパシーを飛ばした。ああ、無類の甘党のわれわれに幸あれ、と。彼はフルーツサンドを早々に食べ終えるとカウンターに肘をつき、アイマスをひとプレイし、そうそうに立ち去って行ったのであった。


我々もプチモンドと腰まがりのマスターに別れを告げた。JR沿線沿いを歩く、高台にある赤羽八幡神社で行きかう電車をながめる。学生時代によく乗っていた京浜東北線が通り過ぎていった。大学時代のことがすこしフラッシュバックした。


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鱗雲が空を覆っていた。


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ちょっとトイレ行きたくなってきたな、と思い、イトーヨーカ堂に寄ることにした。用を済まし、休憩用のソファに座る。しばしの間、無言でスマホをいじっていた。あ、屋上の駐車場言ってみようよと、友人をつれていく。


16時30分だった。新海誠の背景のような景色だった。屋上には、人は一人もおらずとても静かであった。


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もうすぐ日が暮れるね、とかなんとか話していると、一気に太陽は高度を下げてきた。


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気が付くと街は真っ暗になっていた。


友人はちょっとまじめふうの顔つきで、なぜカップルは夜景とか海とか見に行くのだろう、おおきなものを前にして、小さな人間であることを自覚し、隣にいる人の大切さを理解できるからなのだろうかとか、そんなことを独り言ちていた。おおきなものは人から羞恥心を奪うのはきっと間違いないことのようだ。


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ぽつりぽつりと民家の窓に街灯にあかりがともっていくのを眺めた。ひとびとの生活が一面にひろがっている。近くのマンションのベランダには気怠そうにたばこを吸っている男性がいた。同じ景色を共有しているのがなんとなくうれしかった。


いい気分なので、誰もいない屋上で口笛を吹いた。いちょう並木のセレナーデだ。近所に聞こえてたりしてとかそんなことを考えていたら、呼応するように、たばこを吸っていた男性が、はあっくしゅんとくしゃみをした。赤羽ののっぺりした青い夜に破裂音が小さく響いた。友人と顔を見合わせて笑った。秋風が笑いをかき消すように通りすぎていった。