木曜日に、会社の同期をつれだって回転ずしにいった。退屈な労働の日々である。金曜日、夜、どこかへ旅立って一泊して帰ってくるというのは最高なのではないだろうか、という議案を提出した。温泉のようなものがあれば、さらに最高と言えるのではないか、同期の友人は言った。僕は妙案を得た。松本で一泊して、上高地へ行くというのはどうだろう。彼は、おお、いいねといって金曜日に上高地へ行くことが決定された。溺れるような量のあら汁をすすり、これは、うまいと感心しつつ、3000円ちょっとのゲストハウスの予約だけして別れた。
金曜日、15時に問題が発生し、これは旅行にいけないのでは???という不安が頭をよぎった。しかし、構造的抑圧には負けないのだ、不評をかっても出かけたいのだとすべての仕事を投げ捨てて、会社を5時30分に退社して、19時の特急あずさに乗った。
駅弁にビールを買っておいた。出発とともに、タブをひねって、ビールをがぶ飲みする。金曜日の解放感、冷えたビールの快楽、旅の始まりの高揚感がほぼ同時に到来した。暮れなずんだ陽がおぼろげに明るさを残しており旅情をあおった。車窓には西の東京がさみしそうにうつっていた。友人は財布を無くした話を悲しげにかたり、僕は、相槌などうちながら、昔、酔った勢いでなぜかキンドルに落としていた小学生用の学習漫画「日本の歴史」全15巻を読みふけった。ふむふむ、やっと大宝律令まで来たぞと言って、日本も形が整ってきたなあと感心していたあたりで、酔いが回って気絶するように寝た。
22時に松本駅で降りた。ゲストハウスは浅間温泉にあった。せっかくだし、ちょっと観光でもしていこうということで松本城を見に行くことにした。金曜にさわぐ街を歩いた。
松本はランプがちくいちやたらとおしゃれであった。
このランプはいい。すごくいいぞなどと男二人でランプ批評をしながら街を歩いた。
松本城は水面に影を映して、なんだか幻想的な印象であった。
空は雲もなく、星が輝いていた。8月だというのに気温は20度をきっていた。友人は、城の周りをうろうろしているカップルたちにくそー、くそーと言いはなって歩いた。たしかに、城の周りはカップルがたくさん発生していた。
浅間温泉にあるゲストハウスは浅間温泉は松本駅からタクシーで7~8分の距離だった。
ホステル&スパ ファン!松本 入湯税込みで4000円くらい。
この”ホステル&スパファン!松本”はなかなかよかった。
小さな温泉がついていて、ゲストハウスにしては清潔でこじゃれたレストランもついている。コンビニも近い。宿のおじさんは大変親切で、上高地への行き方を丁寧に教えてくれる。
温泉に入り、信じられるか、今日働いてたんだぜ、とタッチ風のセリフなどを放ってみる。
温泉から出てさっぱりしたところで、日付がまわる少し前、すこし散歩でもしようよと宿を出る。飴色の街灯がずっと続いている。歌謡曲を口ずさみながら揚揚とあるいていく。
不気味にうかんでいる赤いピアノの看板。
珈琲美学 アベ
https://tabelog.com/nagano/A2002/A200201/20001420/
松本はどこへいってもランプがおしゃれだ。
モーニングがアラカルト形式になっている。たくさんメニューがあって選ぶのが楽しい。
オーソドックスにトースト
ベーコンエッグ
グラスもいい。
松本電鉄の車両に乗り込み、新島々駅でバスに乗り換える。うとうとしてはっと起きたら、もうそこは上高地であった。
目に飛び込んできたのは
清らかすぎる水!!!!!!!!!!!!!
緑、空、川、山、すべてがうつくしい……
なんて完璧なんだ…
こんな道を歩いていく。気温も20度ほどでここちよい。
めっちゃいいじゃないか……上高地…開始10分で深い感動がやってきた。
30分ほどあるくと湿原のようなところにでる。
突然、サルが現れたりもする。
かわいい子猿
かっこいい
優しそうな猿
とにかく猿がたくさんいる。10分ほど歩けば必ず会えるレベルでその辺をうろうろしている。猿は挙動がおっさん的でけだるそうなのがかわいい。
沢などをすぎていく。
大木が折れていたりするのも迫力がある
オブジェのよう
水草と水面に反射する木々の葉の緑がかさなってうつくしかった
本当に水がきれい。
一時間でも眺めていたい。
昼ごはんをたべる。森の中にどーんと立っている帝国ホテル。赤い屋根が特徴的。
山賊カレーを食べる。3000円くらいして、こんな高いカレーを食べることも今後ないのだろうなと思いながら味わう。カレーのルーに果物が入っている。甘やかな味わいで、これがザワークラウトとタルタルソースによく合う。
金というのは暴力的なもので、確かにカレー自体も大変おいしいのだが、3000円も払っているのだからおいしいものを食べているに違いないという認知的不協和のようなものもかすかに感じさせた。
からの、チーズケーキ。
上高地帝国ホテルの名物らしい。名物という割にはわりとふつうのチーズケーキだった。
帝国ホテルの中は山小屋っぽい雰囲気だった。
おなかも満たされ、疲れていた僕たちは、もう歩かなくてよくね?という事実に気が付いた。もう緑は堪能した。そうに違いない。しかし、さいごに大正池は見ておきたいな…そうだ、タクシーだ!ということで、タクシーに乗り込んだ。
すでに13キロほど舗装のない道を歩いていた僕たちは、タクシーの快適さに驚いた。文明はすごい。コンクリートの勝利、テクノロジーは偉大だ!などと感動しながら車にゆられた。
二人で池のほとりにすわり、手を水にひたす。5秒もつけていると指の芯が痛くなってくる。仕事なんてどうでもいいものだという観念が体をみたしていく。水面を揺らして、健やかな風が吹いていた。家族連れのボートがゆったりと水面を移動している。陽気な話声が響いていた。
金曜日に出かけるのは最高だ、一泊二日であれば日曜がまだ休みなのだ。
おわり。