今夜はいやほい

きゃりーぱみゅぱみゅの「原宿いやほい」のいやほいとは何か考察するブログ

中国大陸を駆け抜ける、夜行列車の眠れない夜 -無座・硬座・軟座③

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いや~硬座ではなかなか寝れないと思いますよ!!と嘆いていた加藤はカップラーメンを食べ終えると一瞬で眠りについた。加藤はきっとどこでも生きていけるタイプの人間なのだろうなと思った。夜行列車は中国大陸を駆け抜けていた。

  

1時をまわっていい加減疲れていたので、僕も寝ることにした。椅子は直角でまるで座禅でも組まされているような気分であった。炭水化物の王、ラーメンを食べて、ビールを飲みおえた状態という、通常、一瞬で眠くなるようなシチュエーションであるにも関わらず、なかなか眠気は訪れなかった。寝ようにも、向かい合わせの席で足を全く延ばせないことに加え、座席の角度が完璧な直角であるため、体がうまいこと安定せず、なかなか意識が飛ばないのである。

 

仕方がないので、本を出して文字を追ったり、スマホツイッターを眺めたりしていた。夜行列車は、お前たちを眠らせる気はつゆほどもないのだぞといった感じで、蛍光灯を煌々と灯し続けていた。

 

僕は、ふと、ネットで見た、絶対に眠くなる方法というやつを思い出した。三文字の単語を頭に浮かべて、頭から一文字ずつなにかしらの単語を連想していくというものである。まあ、何でもいいかと、スマホ、まずはスだから、え~とすし?、次はマだから、マニラ?、ホほえ~っと、ほととぎすで、またスか、え~っとというような感じで、忠実にネット睡眠法を再現していった。

 

こんなの効くのか?絶対効かないだろと思いながら、10周ほどすると、徐々に意識が遠のき始め、うとうとしていると、はっ気が付けば見事に朝!!!なんだ、やたらと早くついてしまったな、はっはっ、なんていうことにはまったくならずに、相変わらず、夜は閑寂として、窓の外には一面の暗闇がこれでもかと広がっていた。ナイト・イズ・スティル・ヤングなのである。

 

斜め前に座る同い年くらいの中国の青年は相変わらずスマホ氷菓を見続けていた。隣では加藤がすやすやと眠っていた。

 

 

 

 

2時をまわったころ、やはり眠れなかったと見える山田がトイレから帰ってきた。きくちさん、トイレに加藤鷹の写真が飾ってありました。山田は僕にトイレットペーパが切れてましたくらいのそっけなさで、不思議な報告をして、やはり直角な座席の上で、座禅的体制で睡眠確保を目指していた。

 

3時頃だろうか、僕はついに、第一次睡眠期に突入した。苦節、三時間の睡眠確保闘争の末、見事、安寧なる睡眠という名の大地に抱かれることとなったのである。僕の睡眠は直ちにレム睡眠地帯へと突入し、僕の体は無意識下にて歓喜の咆哮を放ったに違いないのである。僕は背筋をピンと伸ばしたまま厳かな睡眠をむさぼった。

 

4時、ガタっという衝撃で目が覚めた。どうやら足が蹴られたらしかった。目の前の女子大生が睡眠中無意識に足を延ばそうとして、つつましやかに収められた僕の足を蹴ったのである。女子大生も目が覚めたようだった。僕たちは一瞬目線を交わし、お互い大変だな的非言語コミュニケーションをおこなった。トイレへ向かい用を足した。トイレのそばでは、男たちが床に折り重なって寝ていた。

 

5時、第二次睡眠期だった。女子大生の無意識的ローキックが一時間に一回僕を目覚めさせた。しかたない、僕は言葉も通じない異邦人である。甘んじて蹴りを受け入れようではないかと、静かに目をつぶった。夜明けは近づいていた。

 

第三次睡眠期に突入してしばらくすると、幾人かの人々が電車を降りる準備をし始めた音で目が覚めた。重慶はもう目の前だった。腰に鈍痛が鎮座していた。立ち上がるとみしみしと骨が軋みをあげた。

 

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着いた!!と心で叫んだ。体は疲れていたので、どろんとした気分だった。四人とも、あ、ついたね、くらいの言葉を発する程度の元気しかなかった。硬座とともにあった長い夜を越えて、ついに重慶へと到達した。夜明けの朝はぶどう色。

 

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ちなみに、帰国後、中国人の友人に聞いたら、最近は、中国人も、ほかの手段が見つからないときくらいしか、インツオ(硬座)乗らなくなってきてるよと笑われた。