今夜はいやほい

きゃりーぱみゅぱみゅの「原宿いやほい」のいやほいとは何か考察するブログ

台湾の原住民タイヤル族の村で村長に会い、なぜか面前でカラオケを歌わされる。

前編:日本語と台湾原住民のタイヤル語が混じった言語、宜蘭クレオールが話されるトビウオの街、東澳へ - 今夜はいやほい

 

ここまでのあらすじ

日本語と台湾原住民族のタイヤル語混じった宜蘭クレオールという言語を聞きに、台湾の東澳という町にやってきたところ、祭りに迷い込み、そこで出会ったタイヤルのおっちゃんに車に乗せられ、”村長”と呼ばれる人物に会うことになったのであった。

 

タイヤルの村長にうながされて僕たちは席に着いた。古びた小屋は比較的居心地のよい空間であった。

 

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「いきなりすみません、ビールいただきます」と僕があいさつすると、村長は「食べて食べて」と言って、料理を差し向けてくれた。村長も少しだけ日本語がわかるようだった。

 

醤油ベースのヤギ肉の炒め物と、イカとパプリカのバター炒めのようなものだった。どちらも抜群に美味しく、特にヤギ肉は柔らかく臭みもない。しかし、噛むと滋味深い味わいがある。白米を山ほど食べたくなるような味付けだった。そして何よりビールによくあうのである。俄然、威勢よくビールを飲む。口の中を炭酸の幸福が襲う。

 

「これ、おいしいです!」

 

僕は、さっきからずっとタダで飲み食いしていて少しだけ申し訳ないなあ……と思いながら言った。

 

「これ、ヤギね。そこの裏山でとってきたやつね」

 

村長は指で拳銃を模しながら、パーンとヤギを撃つ真似をした。窓からは里山が見えていた。村長が狩ってきたのだろうか。東澳は山と海に囲まれ、食事事情が豊かなのだなあと思った。

 

山感が伝わるだろうか。それはもうただただ山なのである。

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「本当に村長なんですか?すごいですね!」

 

加藤がヤギをほおばりながら聞くと、村長は「村長だけど、頭悪い。頭悪いけど、酒だけわかる!」と威勢良く答えた。幸福帽のおっちゃんは楽しそうに笑っていた。

 

「酒よく飲まれるんですか」

 

加藤がたずねた。

 

「そうね、今日は朝十時から飲んでるね」

 

「朝十時からですか?すごいですね……」と僕が驚いていると、村長は不敵に笑いビールを飲んで「酒だけわかる!!」と決め台詞を吐いた。村長は決まったなと思ったのか、乾杯!と言って皆に酒を飲むよう促した。僕も小さなグラスに注がれたビールをグッと飲み干した。

 

村長はなにかにつけて「酒だけわかる」を繰り返していた。酒がわかるようになるためにはどれだけの月日が必要なのであろうか。僕も、酒だけわかるなどとうそぶいて全てを韜晦していきたいものだな…と思った。

 

「みなさんはタイヤルの人なんですか?」

 

僕は問いかけてみた。

 

「みんなタイヤル。東澳はタイヤルの人が多いね」と村長は言った。

 

村長は、東澳の首長なのか、東澳の中のある地域の長なのか、その区域のタイヤル族の長なのか、はたまた、もしかしてあだ名が村長なだけのただのよっぱらいなのか、詳細の部分は判然としなかったものの、しかし、豪快かつ大らかな態度は何かしらのリーダー的な立ち位置の人であることは間違いなさそうに思えた。

 

幸福帽のおっちゃんが、「彼らはトビヨを食べたかったらしいぞ」と言うようなことを村長に言った。村長はニヤニヤしながら「トビヨおいしくないね、骨だらけ!」と言ってタバコを吸った。

 

僕たちは、いやいや、なかなか美味しいものでしたよとフォローを入れた。村長が自分の村の伝統食を美味しくない!と堂々と言っているのはおかしかった。

 

ひとしきり会話も盛り上がると、突然、後方から爆発的な音がした。

 

なんだ、一体何が起こったのだと後ろを振り向くと、女性がマイクを握り。歌をうたい始めたようだった。あまりにも音が大きかったので、なにか事故でも起こったのかと思った。日本の少し昔の歌謡曲に似た雰囲気の曲だった。どう考えても不必要に大音量であった。ベニヤのような薄い板作りのこの小屋はとても防音に優れているとは思えなかった。きっと山にまで音が漏れているに違いない。山をうろつくヤギだってびっくりすることだろう。

 

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 今更のことなのだが、そういえばこの小屋は座っていると、勝手に料理やビールが出てくるのだが、居酒屋のようなところなのだろうか。しかし、ここが店であるとするならば、さっき料理を持ってきてくれた女性が、今、私は世界の中心よと言わんばかりの歌声を響かせているのはすこし不思議な気がする。

 

もしかすると台湾版スナックのようなところなのか?とも思ったものの、料理を持ってきてくれたことを除けば、特に接客的なことをしているわけでもない。それにそもそも、メニューもなければ、飲食店をするにはあまりにも山奥すぎるのではないのだろうか……

 

もう数時間におよびビールを飲み続けていたので、僕の脳ではそのような疑問をに対する正確な分析をすることができなかくなっていた。

 

歌が終わり、ばちばちと拍手が溢れた。いやあ、歌がうまいな!と僕も拍手を送っていると、幸福帽のおっちゃんは、僕たちにカラオケの曲番表を渡してきた。

  

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「日本の歌うたって」

 

「え、歌うんですか…」

 

「歌う、歌う」

 

幸福帽のおっちゃんは強引であった。 

 

僕がうろたえていると、村長は「日本の歌たくさんあるよ」といって、もう君達は歌うしかないのだよというような視線を送ってきた。

 

曲目に目を落とす。いとしのエリーくらいあるのかな、まあその辺で手を打っておくかと思ったのだが、どうやら載っているのは古い曲ばかりで、知っているものが全くないのである。ウイスキーがお好きでしょうはサビだけなら知ってるな、CMでよく聞くからな…この小屋でなぜウイスキーが好きだとアピールしなくてはならないのだろう。それはなかなか滑稽な感じがするな。しかし、ウイスキーは好きだな……などと困っていると、村長が、「海の〜」と知らない日本の歌を歌い始めた。おれですら日本の歌えるんだぞというアピールであるようだった。

 

いい日旅立ちとかなら僕歌えますよ」

 

加藤が言った。

 

「え、まじ、どんな曲だったけ…サビしかわからないかも……」

 

いい日旅立ち〜ってやつですよ!」

 

いやそこはわかるんだけど……とかなんとか言っていると、上を向いて歩こうがあることに気が付いた。

 

日本人といえば、上を向いて歩こう!、グローバルスタンダード!スキヤキ!これしかない!と思った。

 

おばちゃんが曲を入れてくれる。やはりチープな映像が今時珍しいブラウン管テレビに映っている。カラオケに行くと画面に映されるチープ映像と言うのは万国共通なのだなあと思った。

 

上を向いて歩こうを歌うにしてはいささか、いやはなはだ大きい音でメロディーが流れ始めた。しっとり歌う心づもりでいたら、なんと上を向いて歩こうはパンクロック風のアレンジがされていた。

 

じゃかじゃか 

 

上を向いて歩こう

 

じゃかじゃか 

 

にじんだ星をかぞえて〜

 

ずこずこ 

 

思い出す 夏の日〜

 

じゃかじゃか 

 

一人ぽっちの夜〜

 

じゃーん

 

 

がなるようにぼくたちは歌った。なにせパンクロックなのである。加藤はこなれたものだった。タイヤルの人たちの方を見る。あれだけ歌え歌えとはやしたのだから、僕たちの歌が上手かろうが下手だろうが、一応興味を持って聞いてくれているんだよね?と思っていたのだが、彼らは僕たちに全く興味を示さず、ビールを飲んだり、スマホをいじったり、窓から外を見たりしているのである。驚愕の梯子外しである。

 

台湾の山奥の小屋で、特に望まれているわけでもないらしい歌を、僕たちはひとまず一所懸命歌った。なかなかの虚無感が襲うカラオケであった。

 

歌い終えると、村長たちは、一応申し訳程度の拍手を送ってくれた。タイヤルの人々は気まぐれである。そつない男加藤は、逆境を物ともせず、パンク風、上を向いて歩こうで調子をあげたのか、ひとり自発的に中国語の曲を入れて、ふたたび歌い始めた。バラードっぽい感じの曲であった。加藤は強い。 

 

台北は何回め?」

 

村長が尋ねてきた。タイペイではなくタイホクと発音していた。これももしかすると、宜蘭クレオールの影響なのかなと思った。

 

「4回目くらいですね。先月も来たんですよ」

 

「すごいね、台湾たのしい?」

 

「楽しいです。みなさん、とても優しいです。今日も車でここまで運んでもらったりして」

 

幸福帽のおっちゃんは親指を立てていた。

 

「あと、台湾は、ご飯が美味しいのが最高ですね」

 

「お、じゃあ、食べて、食べて。わたし10時から食べてるからもう食べれないね」と言って村長はタバコを吸った。僕は僕で、タイヤルの人々から歓待を受け続けて、お腹もかなり膨らんできていた。しかし、相手は村長でもあるし、厚意を無碍にもできまいととりあえず裏山で取れたらしいヤギをもりもり食べた。ヤギはやはり美味しかった。

 

加藤も中国語の歌をしんみりと歌い上げた。

 

タイヤル村長と幸福帽のおっちゃんから、加藤は北京語ができる、なんできくちはできないんだ!と煽られてしまった。そうだな…やはり少しくらいは勉強しなくてはならないな…と思った。

 

幸福帽のおっちゃんが、じゃあ、そろそろ陽も落ちてきているところだし…というような雰囲気を出して、僕たちは、そのなんだかよくわからない小屋を離れることになった。1時間くらいの滞在だった。多少の強引さはあったものの、見ず知らずの謎の日本人二人をもてなしてくれたことに深い感謝があった。村長と、料理を出してくれた女性と固く握手を交わした。

 

「また、来る。ウェルカム」

 

村長はタバコを口のはしで咥えながら言った。村長はなんとなく所作がキマっているところがあった。よく焼けた肌に浮かぶ深いシワがかっこよかった。

 

「絶対また来ます!」後ろを振り返って最後の挨拶をした。また会いに来たいなと思った。今度は腹をすかせて。

 

 

僕たちは、またまたタダで酒とご飯をご馳走になってしまい、もうふわっふわの状態だった。体がビール漬けになっていてあらゆる臓器にアルコールが浸透してきているような感覚があった。

 

これはふわふわだ。近年稀に見るふわふわだ……と少しぼーっとしていると、幸福帽のおっちゃんは、じゃあ、宜蘭行こうかと言って車を出した。

 

「そういえば、海って近いんですか?」

 

せっかく海の近くにいるのならば見ていきたいなと思った。夏もそろそろ終わりに近づき、しかし、今年は一度も海を見ていなかったのだ。

 

「近いよ、いく?」

 

幸福帽のおっちゃんはがこっちを向いて答えた。おっちゃんがこちらを向くと幸福!という文字が頭に見えてついついおかしくなってしまう。本当に気の良い人であった。

 

「お願いします!」

 

山を滑らかに下っていくと、視界がばっと広がり、海が見えてきた。たおやかに広がる海、少し日が落ちてきていた。

 

おっちゃんが車を止めた。ドアを開けて車から降りた。海は広い!

 

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深々と青い綺麗な海だった。波も穏やかであるようだった。地元の人たちが憩う場所のようだった。家族で遊びに来ていたり、おじさんが一人しゃがんでいたり、思い思いに海を楽しんでいた。海辺にはどこの国にも似たような光景がある。

 

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車で浜まで乗り入れて、釣りをしている人なんかもいた。いい休日の過ごし方だなあと思った。

 

海の周りというのは、普段の生活とは別の時間が流れているような気がして良いものである。世間の喧騒とは全く何も関係なく、海鳥が飛び、潮は満ちては引いていき、波は飛沫をまいている。

 

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「東澳の海なかなかきれいだね」

 

「そうですね、悪くないですね」

 

「エメラルド!って感じではないけど、これはこれでいいよね」

 

幸福帽のおっちゃんは、まあいつもの海だなというような表情で波打ち際などを見ていた。

 

今日、朝東京を出たのかと思うと、なんだか遠くへやって来たものだな…と思ったりした。少し海沿いを歩いた。昼間は暑くて仕方なかったのだけれど、だんだん心地よい風が吹くようになってきていた。

 

「じゃ、宜蘭の街までいく?」

 

幸福帽のおっちゃんは言った。

 

「そうですね、お願いします!」

 

僕たちは、ふたたび車に乗り込んだ。

 

 

高速道路で宜蘭まで向かった。ホンダのミニバンは快調だった。

 

車はやたらとスピードが出ていた。台湾の高速はいったい何キロが制限速度なのだろう…と思いながら後部座席に座っていた。

 

「会社いくときいつもこの道つかう、だから慣れてるね」

 

おっちゃんはビュンビュンと並走車を置き去っていく。

 

「宜蘭で働いてるんですか?」

 

加藤がそつなく相槌をうつ。

 

「そうそう、お店やってるね」

 

「へ〜すごいですね!社長さんじゃないですか」と僕は感心した。

 

おっちゃんは、不思議な帽子をかぶった謎のおじさんというだけではなく、経営者的な側面もあるようだった。

 

「店にいったら酒飲んでるやつらばかり」といって笑っていた。

 

「あれ日本が作った工場」

 

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「 あれも、あれも、日本が作った工場。ちなみに、わたしはあっちのほうに住んでるね」

 

幸福帽のおっちゃんは車を走らせながらそんなことを教えてくれた。いいとか、悪いとかではなく、ただ日本が建てたんだよというような感じだった。へ〜たくさんあるんですねとかなんとか言っていると、すぐ宜蘭の中心地についた。

 

「あの豚肉をアピールしてる店とかうまそうじゃない?」

 

僕はそろそろ暗くもなってきたし、夕飯の店でも見繕っておこうかなとそんなことを言った。

 

「だめだめ、あれおいしくないね。いったことある。全然だめね」

 

幸福帽のおっちゃんが言った。

 

「ご飯、食べに行く?」

 

おっちゃんは、おれの行きつけの店に連れてってやるから、お前らは店を外さないぞ、マジでラッキーだなと言うような調子だった。

 

まあ、知らない街で、店を探すのもなかなか大変だし、地元の人に連れてかれるのが外さないのかなとも思った。車は宿の前についた。

 

「じゃあ、いったん荷物を置いてくるので、そしたらいきましょう!」と加藤が告げて僕たちは感謝を述べつつ車を降りた。

 

「おっちゃんの住んでる家の周りわりといい土地っぽかったね」

 

「村長と仲がいいくらいだし、結構偉い人なのかもしれないですね。飲食店も経営してるみたいだし」

 

「小屋ではふだん地元有力者の裏政治のようなが行われたりしていたのかもしれないね」

 

「なんかおっちゃんと夕飯まで食べることになっちゃいましたね」

 

「正直お腹いっぱいじゃない?」

 

「ですよね、さっき食べたばっかりですもんね」

 

「まあでも、ここまできたら、最後までいくしかないのかもしれない」

 

「そうですね。とことん行くしかないのかもしれないですね」

 

宜蘭の街には夜の帳が落ちていた。

 

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宿はきれいとは言い難いタイプのビルの7階だか8階だった。僕も加藤も、寝れればなんでもいいタイプの人間だった。

 

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チェックインを済まし、荷物を起き、あー疲れたと、ふとベッドの方に視線をやると、ふとんの上に、黄色い何かが転がっていた。なんなんだとまじまじ見ると、それは、びっくりチキンなのであった……なぜ我がベッドの上に先客が……それにしてもまじまじとチキンの顔を見ると大変にまぬけである。

 

新手のルームサービスなのだろうか…… 

 

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景気づけに一発ならしてみる

 

「ブーヴィー」

 

チキンは哀しみと憐れみと微笑みを混ぜたような奇怪かつ面妖な音で鳴いた。

 

チキンは鳴けども、1日目はなかなか終わらない。

 

つづくかもしれない

 

きくち (@zebra_stripe_) | Twitter