今夜はいやほい

きゃりーぱみゅぱみゅの「原宿いやほい」のいやほいとは何か考察するブログ

井上陽水の書く歌詞という永遠のシュール

井上陽水というと多くの人にとっては、少年時代なのではないかと思う。風あざみという謎の言葉を歌詞に使っているというのは結構有名で、知っている人も多いのではないだろうか。そう、風あざみにも現れている通り、奔放かつどこか不気味な歌詞が陽水の魅力なのである。よって、僕の好きな陽水の歌詞をここに紹介していきたい。

 

旅先のソウルのレコード屋で突然の陽水。

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韓国でも陽水は不敵に笑っていた。

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井上陽水は氷の世界という摩訶不思議な曲をひっさげ日本のレコードで初めてミリオンを売り、太字フォント100で日本音楽史にその名が刻み込まれた。日本初のミリオンでありながら日本でミリオンを記録した曲の中で最も狂気的な歌い出しなのではないかと思う。

 

窓の外ではリンゴ売り

声をからしてリンゴ売り

きっと誰かがふざけて

リンゴ売りのまねをしているだけなんだろう

 

www.youtube.com

 

ほとんど不条理劇である。声をからしてリンゴを売っているだけでも狂気なのに、真似をしているだけなのだという。これは困難である。

 

困難は続いていく。

 

井上陽水 My house

庭は猫の額 My House

俺の悲しみは Ma maman

雪の白アリはわからんム

 

open.spotify.com  公式の動画がなかったのでSpotify

 

一行目はまあ分かる。二行目は、音の良さを出したいのかなといった趣である。三行目、これは井上陽水の一つの到達点である。

 

雪の白アリは

 

わからん

 

 

聞いてみるとわかる通り歌詞は上記のタイミングで音が切られている。文字ではムとなっているのだけど、聞いていると、無!というかんじがする。ム!と言われても困ってしまうのだが、井上陽水のただならぬ声で聞いてみると、いやむしろ、これ以外にしかあり得なかったのではないのだろうかといった音の並びに思えてしまう。

 

なるほど音の並びがいいかどうかという点に陽水は重きをおいているのだなと思いきや、こんな曲がある。

 

なぜか上海

いいからまそ、まそ、ま、まそっとおいで

ころがる程に丸いお月さん見に

ギターをホロ、ホロ、ホ、ホロッとひいて

そしらぬ顔の船乗りさん

 

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まそ、まそ、ま、まそ

ほろ、ほろ、ほ、ほろ

 

なぜか上海とは一体なんなのかという点はいったん横においておき、なんとも大変な歌詞である。聞いているだけで噛まないだろうか不安になる。単に音の良さという感じでもないというのがまた良いのである。まそっとおいでか、AM3時くらいになぜか動き出した幽霊列車に乗り込む時の効果音かのようである。上のム!もそうだけど、井上陽水は、「わ」の音がとてもきれいなのだけど、ま行の音もなかなかよい。まそまそ。

 

My houseは、以降、こんな感じで続いていく。

 

恋はマッシュポテトだ 恋は電子キャラメル

街の道に無知な人並 山羊の耳に盛り上げ製果

誰がミックジャガーだ どこがチャイナタウンだ

海を越えたムラサキ電話 古い事は明治らしいわ

 

恋とはなんなのか。井上陽水の答えは、マッシュポテト、及び、電子キャラメルである。ポップコーンとかならまだわかる。弾けたイメージねといった感じだ。しかしマッシュポテトとなると話は別である。恋はマッシュポテト、そうかマッシュポテト。これは、同時代のある種のフォークソングなどの4畳半うつうつじっとり実存恋愛主義に対するおどけか何かなのだろうか。

 

山羊の耳に盛り上げ製菓。なんのことなのだ?と思って歌をよく聞いてみると、陽水は、盛り上げ製菓ではなく、どう考えても、森永製菓と歌っている。おそらく版権などの関係で、文字列としては、盛り上げ製菓と書かれているものと思われる。そうかなるほど、山羊の耳には森永製菓なのだな。陽水の迫力を前にして、僕たちはそっとその事実をただあるがままに受け入れるしかないのである。

 

だんだんと、井上陽水の歌詞の魅力が開陳されてきたところで来るのは

 

古いことは明治らしいわ

 

これは陽水の得意なパターンといっていい。同じような言葉の反復だ。

 

陽水は小泉進次郎構文の巨匠なのである。

 

今のままではいけない。だからこそ今のままではいけないと思っている。

 

古いこと、それはつまり明治らしいということだと思っている。そんな感じである。

 

有名なところではリバーサイドという曲がある。

 

誰も知らない 夜明けが明けた時
町の角から ステキなバスが出る

 

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ぱっと聞くとふむふむと聞き流しそうであるが、少しよく聞くと、夜明けが明けるというのはなんなのか、僕たちはその問いの深淵に一気に引き込まれることになる。畳み掛けるようにサビがやってくる。

 

ホテルは リバーサイド
川沿い リバーサイド
食事も リバーサイド
Oh リバーサイド

 

川沿い リバーサイド

 

チェックインなら 寢顔を見せるだけ
部屋のドアは 金屬のメタルで

 

金属のメタル

 

ホテルは リバーサイド
水辺の リバーサイド
レジャーも リバーサイド
Oh リバーサイド
リバーサイド リバーサイド

 

水辺のリバーサイド

 

同語反復のラッシュがたまらなく不気味である。そして、陽水は、いったいどれだけリバーサイドといいたいのだろうか。ホテルも川沿いも食事も水辺もレジャーもリバーサイド。全てが一緒くたにとけあって猫も杓子もリバーサイドなのだ。

  


最後にデビュー曲を。井上陽水アンドレ・カンドレという名でデビューした。陽水前夜の曲である。ちなみに曲名は「カンドレ・マンドレ」という。アンドレ・カンドレのカンドレ・マンドレ。

 

淋しいことなんか
そこにはひとつも あるものか
あなたが愛して
私も愛する それだけさ
ラララ… ラララ…

 

よくお聞きよ 二人の言葉
カンドレ・マンドレ
サンタリ・ワンタリ
アラホレ・ミロホレ
1234 ABCDEFG

 

アラホレ・ミロホレ。そう井上陽水はデビュー時から一事が万事この調子なのだ。 ABCDEFGへと消えゆく言の葉を前に、僕は居を正すことしかできないのである。