電気もつけずキッチンに立つ。傷の入った林檎が放置され、ゆっくりとダメになっていく。夜の光がくすんだ窓に滲んでいる。どこからか雨音が聞こえるような気がする。酔いは冷めていて、水をたっぷり飲む。雨は降っていない、しかし、どこからか雨音が聞こえ…
普段たいしてみていないテレビをよく見た。埼玉政財界人チャリティ歌謡祭は、相もかわらず凄まじいカオスであった。年末年始見たあらゆるテレビ番組の中でもっとも強烈であった。我が物顔で歌うワンマン社長、側でロボットのように動く部下、どうしてこうな…
ふすまを開き、配偶者は言った。仙台に行ったことないのはやばいよ、人生の半分損しているよと。僕が真冬に寒い寒いと言うと、え、これで寒いの?と北から目線をキメてくる配偶者は仙台の出身であった。東北圏の中心的位置をしめる仙台、不肖わたしは、その…
麺類というのは大概うまいものだが、新しいカテゴリで、これうまい!というものにこれから出会う事はあるのだろうか...と思っていた。熊本に行ったら、出会ってしまった。太平燕である。 タイピーエンと読む。このタイピーエン、一般的にどれくらい知名度が…
霊場恐山。誰もが一度は耳にしたことがある名前なのではないだろうか。あの世に最も近いところとなどと呼ばれ、死者の弔いに多くの人が訪れる場所である。ごつごつした岩と透き通った泉の現実離れしたイメージに惹かれて一度行ってみたいなと思っていた。 八…
一人で肉を焼き食べる。これはなんとも独善的で、それが故の幸福をもたらす。なお、しめには冷麺がついていることが好ましい。 結婚して知ったいくつかの重要な事柄のひとつに、盛岡冷麺がとてもうまいということがある。僕の中で冷麺と言えば朝鮮系のさっぱ…
新疆風大皿鶏はあまりにもデカい 新疆・味道 上海蟹の季節には 大沪邨(だうつん) 街の片隅で歴史を食べる 新珍味 なぜ汁なし坦々麺はかくほどに美味いのか 中国家庭料理 楊 池袋で最も落ち着く 梅舎茶館 カウンターでうまい中華を 沙漠之月 僕はとにかくい…
茶といえば、静岡というイメージがあるけれど、実は埼玉でも結構茶が作られている。とは聞くものの、では飲んだことあるのか?と問われると、数回ちょろっと飲んだことあるかなというくらいで、あまり、印象がない。 入間という町に来ていた。入間基地がある…
季節も変わり、体がそれに慣れた頃、親族が亡くなった。葬式に馳せた。四方を青々と揺れる稲に囲まれ、遠く香る海風を探していたら、その後ほどなく安倍元首相も亡くなった。ニュースはけたたましく銃声を流していた。 二連続の事件によって、何度か死に関連…
車を降りると、スパイスの匂いがした。四角い通気口から、中華料理の仕込みの匂いが漏れてきているようだ。川口の朝は刺激的である。近くの喫茶クラウンに入った。 「今日どこ行くんですか?」と大学の後輩田中は言った。 「え、どこに行くか言わないで誘っ…
夜行というのはなんだか不穏な響きがある。これは、寝て起きたら、全く知らないところに突然放り出されるということに起因するのではないかと思う。 赤い車体がなおのこと怪しい印象を強める寝台列車、サンライズ瀬戸に乗り込んだ。東京から高松へと向かう便…
中学の頃からの友人に会った。友人は、小指の骨が折れたのだと言った。なんでも残業続きで、スクーターに乗りながらうとっとしたら、こけて、転げて、小指の骨が折れたのだそうだ。会社はやめたよ、と彼は言った。 僕は臓器が荒れて、一週間寝込んだよと言っ…
三重県は、桑名駅で下車すると、ニッカポッカを履いた男がシャカシャカと歯を磨いていた。線路敷設の夜勤でもしていたのだろうか。その手のリズムたるやなかなかのもので、 健やかな青空の下、なんとも気持ち良さそうである。僕も、金曜の労働を終え、晴々と…
夏の終わり、別府に行った。温泉というのは、いつ入るのが適当なのかということについては様々な議論があるが、夏の終わりというのは一つ有力な候補なのではないかと思う。つまりは、最適な時期に別府に来たということなのである。 僕は、前回別府に来た時、…
ツイードのジャケットを着た老夫は、ニタニタと一人笑い、タバコに火をつけた。骨張った指に挟まれたタバコはPeaceだった。薄暗がりの店内でタバコはぽっと灯り、白煙を立ちのぼらせた。んー、んーと言葉にならない声を一つのリズムにニタニタ笑いの老父はタ…
営業終了してしまったホテルニューアカオ。いきなりのことだったので、古いホテル好きの人たちの間で、悲しみの声が上がっている。単なるホテルというだけではなく、その個性的な姿は、ひとつの熱海名物のようなところがあった。一回いったことがあるだけの…
用事があって名古屋にやってきた。何もないと言われる名古屋であるが、何もない度では他に引けを取らない埼玉から来た僕たちは、密かに興奮していた。名古屋めしを食べつくさん。そんな1泊2日の記録である。 朝10時を少し過ぎたころ、名古屋駅に到着した。 …
beautiful city... beautiful city..... さよならさ 池袋の楼上… 上海蟹食べたい!と言うことで、中国現地度の高い店が日に日に増える池袋にやって来た。 とにかく鬱陶しい道端の黒服キャッチ集団を無表情で回避し、猥雑な北部池袋を歩く。池袋ウェストゲー…
ぱつぱつに張ったふぐの白子の薄膜が口の中ではじけると、体が打ち震えた。なんなんだこれと…… 口の中にべっとりと旨味が残り、その香り高さは消え去ることがなかった。こんな美味いものがあったのか…… * ふぐといえば下関という噂があるが、数多蠢く噂をか…
深夜のおつまみ、これは何が最適なのか。我々は、長らく検討を重ねてきたところである。おつまみとしての最適解はどのようにして求められるものか。 ・美味しさ ・しかし、過度においしくても食べ好きてしまう ・手軽 ・しかし、手軽すぎても食べ過ぎてしま…
真っ白な皿に黒々と横たわる大ぶりなから揚げ…… その店は、神楽坂と江戸川橋と早稲田の中間の住宅街で小さな光を灯している。看板にカレーの店とデカデカと掲げられているとおり、基本的にカレーがメインの店である。 カレーの店 ヨッチ! カレーの店とある…
お使いのようなもので京都に来た。 日中に烏丸三条で用事を済ませ、たちまち夜だった。道を歩いていたら、後ろから来た男に何事かを叫ばれ、肩を殴られた。京都というのは恐ろしい街である。道を歩いていたら殴られた事はありますか?普通ないですよね。中学…
生きていると、鳥のフンが無慈悲に天から舞い落ちて、体、および荷物などにばちんと当たったりする。まさに青天の霹靂とでもいうような出来事である。 同様に、ふと、思いがけず、何の気なしに立ち寄った街で、桃源郷のような居酒屋に出会ってしまうことがあ…
残念なことに、大変残念なことに、コロナウイルス収束の気配がない。収まるどころか拡大をしているといっていい。そろそろファクターXの捲土重来に期待したいところだが、それもない。居酒屋での酒の提供がなくなったかと思いきや、なんと、コンビニで酒を売…
引っ越してきた築30年オーバーのマンションの僕の部屋は畳張りだ。ドアを開けると、ふわふわと枯草のような匂いがする。春になってあったかくなってきたことによって、匂いが増幅したような気がする。乾いた洗濯物を畳の上によく放置しているので、会社で、…
「フォカヌポウ」というネットスラングがある。意味はググって欲しい(ググっても、意味はあってないようなものなのだが)いきなりフォカヌポウがどうしたのだ、とお思いの方も多いと思うのだが、朝起きて部屋の中でゴロゴロしていたら、どこからともなく、…
2020年はなんの年だったのかと問われれば、多くの人にとってコロナの年ということになるだろう。しかし、僕の場合は、コロナの年であるとともに、カレーの年でもあった。しらない駅で降りれば、いの一番にカレー屋について検索をする、そんな状態だった。コ…
11月のあたまに、ちょっとした用事があって岐阜に行った。岐阜の大垣という街である。結論からいうと、カツ丼、およびとんかつが美味かったということについての報告である。 大垣 朝日屋 歴史を感じる店構えだ。こういう店は、可もなく不可もない、全くもっ…
「埼玉の起源というのはだね、どうも、行田にあるらしいんだよ」いつだか忘れたのだが、酒を飲んでそんな話をした。 「お、我々の埼玉ですか」僕も加藤も埼玉出身だった 「そう、我々の埼玉だよ。埼玉への気持ちを取り戻す時が来ているのではないか、そう思…
近年、埼玉県の川口のチャイナタウン化が著しいというのは、わりとよく聞くところだ。神奈川にはチャイナタウンの始祖とでもいうべき、横浜中華街があるわけだが、なんでも神奈川には、ベトナム人が多く住む地区というのもあるらしく、そこで、いいかんじの…