「なんで、ここにいるんだっけ」
僕は、呟いた。
”我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか”
なぜここにいるのか、それは、ゴーギャンも言うように、古典的、哲学的な問いである。
泉岳寺は東京正心館の前で、男4人は顔を突き合わせていた。
「僕が行ってみたいって言ったら、きくちさんも乗り気だったじゃないですか」
チェーンスモーカーの後輩、山田は言った。
「たしかに言われてみればそんな気がするな……」
さかのぼること1週間、4人は、新小岩のすさんだ居酒屋にいた。アフターファイブに僕たちは折を見ては酒を飲み、時間があえば近場でドライブなどをしていた。
川崎編
蠢く労働者たちののアフターファイブ、金曜夜の旅~川崎工場地帯編 - 今夜はいやほい
チェーンスモーカー山田の就活が終わったとの報にかこつけて、祝杯でもというやつだ。
「なんの仕事するの?」イカソーメンをほおばりながら聞いた。
「いわゆる、ITというやつですね」
「ふーん、そうか、なるほど、何はともあれよかったね」僕は、聞いておきながら、生返事をした。
「しかし、山田君がいよいよ社会に出ることになるとはねえ…」
広告マン加藤は、真面目そうな不真面目そうな顔で、香りのついた蒸気を吸い込む水たばこのような何かをふかした。
僕は、生姜焼きをほおばった。
「なんだこれ、うまい、そうだね、あのやまだくんがもう大学を出るんだねえ、はあ、うまい」
「ホッホッホ、山田君を雇うなんて徳のある会社なんでしょうねえ」
特徴的な笑い方をするホホホのオネットは山田君を殿上人扱いするのが好きであった。
就職おめでとう話は5分もたたずに終わった。毎週末、1泊2日の弾丸アジア旅行をしている加藤のお土産話を聞いていると、2時間ほどが過ぎようとしていた。飲み会も時の半ばであった。
チェーンスモーカー山田はスマホを眺めだした。スクロールする指を止め目を見開いた。
「大川隆法総裁が東京ドームで公演会やるらしいですよ、これはきになりますね……」
「行くか」
「行くか」
「そうだな」
誰が行くかと言い出したのかも定かではないが、僕たちは幸福の科学の会員でもないのに、大川隆法総裁の公演会を聞きに行くこととなったのだった。
話をぐるっと元に戻して、東京正心館の前である。本当であれば、直接東京ドームへ直接赴き説法を拝聴したいところであったが、東京ドームに入るには身分証の提出が求められるようであった。それにはうーんという思いに駆られた我々は、衛星中継が行われている、幸福の科学の本拠地のひとつ東京正心館へとやってきたのだった。
つづくかもしれない