今夜はいやほい

きゃりーぱみゅぱみゅの「原宿いやほい」のいやほいとは何か考察するブログ

出上海、一路、枸杞島へ。船でお姉さんは絶句した、酒が必要だった 枸杞島潜入編③

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われわれの目的地は嵊山島(しぇんしゃんとう)だったのだが、そこへ行くためには、まず枸杞島(ごうちとう)に上陸する必要があった。 

 

霧ははれてきたものの、上海の空気はかなり汚れており、車窓からの景色はぼんやりとしていた。大気汚染の影響なのか、バスの中でものどがじんわりと痛くなった。

 

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1時間ほどバスで寝ていると、船着き場に到着した。そこは、上海の離れ小島のようなところで、嵊泗列島行きの船が発着する場所であった。

 

 

バスを降りる

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船のターミナルは、人でごった返していた。

 

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島へ向かっていく人たちは、漁業従事者が多いのか、肌が焼け屈強な体躯をしていた。そして、やはり、話し声がとてもおおきかった。ヘビースモーカー山田は、もし島まで行ってたばこが売ってなかったら死ぬ、これはまずい、ああまずいぞと言い、搭乗待ちでごったかえすターミナルでたばこを探し、消えていった。

 

「山田くんは早くも、偉大な中国人民に溶け込みだしましたね」加藤は楽しそうに言った。

 

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いよいよ、船へ乗り込むことになった。

 

「なんだかすごい乗り込み口だね…難民になったような気分だ」などと誰かがつぶやいた。僕は、カイジの世界に迷い込んだような気がした。

 

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 船は非常に狭かった、椅子は硬く隣との距離も非常に近かった。そして、その船に乗る中国の人々は、やはり、耳をつんざくような音量で会話をしていた。まだ、会話の内容が分かれば、気にならないのかも知れないが、全く意味の分からない会話を大音量で聞くのはそれなりにしんどいことなのであった。

 

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 「これに、僕たち4時間乗るんですよね…」と山田は絶望的な声を上げた

 

「あくまで順調にいけば4時間といったところですね。この狭さ、うるささ、椅子の硬さで4時間はなかなか限界的状況ですね」と中国語にかき消されながら加藤は答えた。

 

「つらい、そしてこれは、もしかしてけっこう揺れたりするんじゃないの?やっぱり吐く人とかいるのかな」僕は大変不安であった。

 

「吐瀉袋はあるみたいですね」加藤は前の椅子背中にあるポケットから袋を取り出した。

 

「うーむ、これは確かに限界的状況だ」

 

僕は、やはり暗澹たる気持ちであった。

 

しばらくすると船は動き出した。ひとり景気づけにさらば、偉大なるアジアの大地!などと心で唱えた。

 

 

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ひとつよいことが判明した。 船は予想していたほど揺れなかったのである。とりあえず、吐き気に襲われることはなさそうだなと安堵した。10分くらいすると無限に動き回っていた乗客が徐々に席に着き始め、船に秩序が訪れ始めた。

 

「しかし、これはつらいですね。この固くて小さい椅子に座って4時間このままというのは、完全にまずいです。」長動症に失陥している加藤は本当に発狂しそうな雰囲気だった。

 

「限界的状況だな……」

 

僕がつぶやくと、山田も「限界的状況ですね……」とつぶやいた。我々は、限界的状況という言葉に面白さを感じ始めていた。

 

「こういう時は酒しかないんですよ。現状打破のため、ビール買ってきますね!!」と言い放ち、加藤は売店へと去っていった。

 

 神々しい青島ビール

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僕は大学生の頃第二外国語が中国語だったため、ほんの少しだけ中国語が分かった。そのため、啤酒!啤酒!などと騒ぎ缶を受け取った。おそらく10も記憶に残っていない、中国単語のなかで、ビール=啤酒は覚えていた自分の脳が誇らしいような愚かしいような気がした。

 

なんかぬるいな、そして炭酸が弱い、などと文句をこぼすと、加藤は、青島ビールはそこがいいんですよ、と訳知り顔をしてうまそうにビールを飲んだ。僕も青島ビールは好きですねと山田もごくごくとビールを飲み干していった。加藤と山田はふたりとも麻布高校の出身であった。ふたりには、たしかに似たような何かを感じさせる瞬間が時折あった。

 

船は快調に海原を進んでいたが、特に景色に変化があるわけでもなく、ビールを飲み干した後、再び窮屈な閉鎖空間が生む限界的状況が訪れた。

 

「酒が足りないですね…ていうか青島ビールじゃ、アルコール度数が弱くて酔えませんね」

 

加藤は酒がかなり強かった。

 

「そうだね、追加で飲んでもいいけど、この辺にしておくのもありかと思うよ」と僕は良識派的な意見を述べた。

 

「あ、なんか紹興酒みたいな酒がありますよ」ヤマダはカウンターのほうを指さした。

 

「きくちさん、限界状況突破のためにはとにかく酒を飲み、意識を失うのが最も良いのです」そういうと加藤は小走りでカウンターへ向い、アルコール度数の高そうな酒を買ってきたのだった。

 

中国酒?

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「35%か、なかなか強いな、ちょっと待って、そもそも、どうやって飲むの?まさかこの船内で回し飲み?」僕はふたたび、良識派的意見を言った。

 

「きくちさん、ビールの空き缶があるでしょ、それにいれるんですよ」加藤はそう言うと、酒を注ぎだした。

 

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「これ、本当に限界的状況だな……」と絶句していると、加藤の隣に座る同い年くらいの女性が”オーマイガッ、この外国人たちは…”といった表情を浮かべているのが見えた。

 

「加藤君、きみの後ろの紫のセーターの女性がドン引きしているよ」と告げると、加藤ははらりと振り返った。持ち前のコミュニケーション能力で、「は、は、ごめんごめん」とにこやかに笑い、つまみに買ってあった煎餅をセーター女性に渡したのだった。

 

すると、女性はしょうもないやつらだが、悪いやつらではなさそうだと思ったのか、くすくすと笑い、お返しに飴をくれた。

 

僕たちは、なぜかいい感じにコミュニケーションが成功したことに、にわかに盛り上がり、軽快に酒を飲み進めていった。

 

「オネットは飲まないのか?」加藤が言うと「僕は本を読むんだ」と彼は本を取り出した。もくもくとページをめくっていた。10分ほどして加藤はオネットの本をのぞき込んだ。

 

「何読んでるの?」

 

カポーティ―の冷血だよ」

 

「まだ10ページしか読んでない、全然進んでないじゃないか、やっぱり酒を飲むべきだ!」といい加藤はオネットの空き缶に中国酒を注ぎこんだ。とくとくとくと小瓶はかわいい音を立てた。

 

「健康酒って書いてあるね、じゃあきっとどれだけ飲んでも健康になるだけなんだろうな」僕は、酔ってきたのかややわけのわからぬことを言い、 そのまま酔いに任せて、眠りについたのだった。

 

目が覚めると残り20分ほどで枸杞島に着くような時間になっていた。日本から持ってきていた「青年は荒野をめざす」の文庫本を取り出した。

 

主人公の青年は、今日、僕は冒険をするんだと決意し、モスクワへ向かう飛行機の中で添乗員をナンパし、ペーソスに満ちた音楽を味方につけ、”形式にこだわるな、感じたままに吹いてみろ!それがジャズだ”などというかっこよいセリフとともに身を焦がすようなワンナイトラブにいそしんでいた。僕は自分のほうがよっぽど荒野をめざしているのではないだろうかなどと思った。

 

東京から12時間、僕たちはようやく枸杞島に到着した。島の海は眠っているかのように穏やかで、きらきらと光っていた。

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 つづくかもしれない

 

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