財布に優しく、圧倒的にうまい寿司が食べたい。それが人間の欲望である。
財布に優しいとはいくらなのか。5000円、確かに一回の飲み会に行ったと思えばよい気がする。しかし、ふらっと行くには5000円は高いのではないか。
3000円、そう、3000円でおいしい寿司が食べられたなら、気負うこともなくふらふらと店に通うことができる。なんとかして、3000円で食べれる寿司屋を見つけなくてはならないと、瀕死の満員通勤列車の中で思案をしては、スマホで検索する日々を過ごしていた。ある日、GoogleMapで位置を変えながら「寿司」と検索をしていると、なんと2000円で大変おいしい寿司を食べれると噂の店を見つけてしまったのである。
すぐに向かうことにした。その寿司屋は、哀愁と美食の街、十条にあった。
十条 かわなみ鮨
十条駅から徒歩5分ほど、街の片隅で長らく時間を過ごしてきたことがうかがえる無骨な佇まいである。街中の寿司屋、いわゆる街鮨としての威厳を感じさせる。
店の前で僕は逡巡した。こういう寿司屋には、うらぶれ常連客が常駐し、暖簾を潜ろうものならば、薄暗いカウンター越しにねじりハチマキ無口系大将が睨みを効かせ、僕の素性を瞬時に把握し、チッ一見かといった視線を送ってくるのではないのか、そういう怖さがあったのである。
ドアを開けると迎えてくれたのは女性の店員であった。一人ですか?はい一人です。予約していないんですけど大丈夫ですか?大丈夫ですよ、と僕は望外に暖かく迎え入れられたのだった。
メニューを見ると、特上なんと1700円!!梅ならば890円である。瀕死の通勤列車の中で夢見続けた理想の寿司屋である!速やかに特上を注文した。
席に着くと大将が出てきて、素早い手つきでビュンビュンと寿司を握っていく。大将は寡黙な雰囲気だが優しそうであった。
すごい勢いで下駄に寿司が並べられていく。
僕は震えた。
うまそうだ……
大トロから食べる。寿司には実は食べる順番なるものがあったりするらしいがよくわからないので大トロから食べる。欲望に従っていくのである。
甘い……油がなんとも甘やかだ。舌触りがたまらない。トロどころか、ついでに顔の下半分まで全てとけてしまいそうである。昨日の夜7時に夕飯を食べ、朝食を食べていない体には劇物のようであった。全神経が口に集中しているような気がした。
結局、お腹が空いている時の吉野家が一番うまい的な話があるが、否、一番うまいのは空腹時の大トロなのである。
うに
新鮮な味がする。うにも甘味がある。おいしい。
かんぱち?
シャリはシンプルな味の酢飯だ。江戸前!という感じである。
いくら
漬けマグロ
この鉄火巻きがおいしかった。鉄火巻きながらも、けっこういいマグロを使っていると思った。
あと写真にはないけれどイカとかも出てきた。
特上寿司のセットは全て出てきたのだけど、大トロがあまりにもおいしかったので、追加大トロをキメた。
やはりとても上品で甘やかだ。二度食べても感激の度合いは薄れない。
そして茹で上がったばかりというのでほかほかの穴子も頼んでみた。 箸で持ち上げるとプルプルと震えていた。もろくはかない穴子である。案の定大変おいしかった。
特上寿司が1700円、なんと追加オーダーをしても2100円ちょっとだった。
このお値段でこんなに美味しいものが食べられてしまうなんて…… かわなみ鮨、月1くらいで行きたい。2019年、最も幸福な2000円の使い方であった。
きくち (@zebra_stripe_) | Twitter