今夜はいやほい

きゃりーぱみゅぱみゅの「原宿いやほい」のいやほいとは何か考察するブログ

江戸川橋 カレー屋 ヨッチのから揚げ定食。非メインメニューを好きになってしまう。

 

真っ白な皿に黒々と横たわる大ぶりなから揚げ……

 

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その店は、神楽坂と江戸川橋と早稲田の中間の住宅街で小さな光を灯している。看板にカレーの店とデカデカと掲げられているとおり、基本的にカレーがメインの店である。

 

カレーの店 ヨッチ!

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カレーの店とあるように、多くの人は当然、カレーを食べにきている。もちろんカレーもうまい。さらっとした昔ながらの洋食屋のカレーといった印象で、旨味も強く、目玉焼きを崩しながら味を変化させつつ食べるとよりうまい。なんとルーはおかわりもできるのだ。これでも十分すぎるほどの力強さである。

 

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しかし、ある時ふと思った。もしかして、今日、どちらかというとから揚げを食べたい気分なのではないかと。蕎麦屋でカレーが食べたくなったり喫茶店ジャンバラヤが食べたくなったりしてしまうのと同様の現象である。そんな気のうわつきによって、ぼんやりとから揚げを頼んだらば、引き返すことが不可能な地点まで落ち込んでしまった。家でもヨッチのから揚げを思い、会社で退勤前にから揚げを思い、次の日もから揚げを食べに行ってしまったのだ。

 

ヨッチのから揚げは、少し味付けが濃い目に作られている。どうも揚げられた後、甘酸っぱい醤油ダレに軽くつけられているようだ。つけられているので、姿はかなり黒々しい。鳥の旨味、揚げ衣のジュワジュワ感、加えて、くちの中に全面展開する醤油ダレ。鶏肉も適度に柔らかく、これが病みつきなのだ。

 

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目玉焼きを少し崩してややとろみのついた黄身に合わせる、米と合わせる、キャベツと合わせる、パセリ、パスタ……何と合わせてもこれが合う。ちょっとくどくなってきたかなと思ったら、辛子をつけて味を変えても良い。から揚げを中心として、様々な組み合わせでから揚げを楽しむことが可能である。僕はここのから揚げが東京のあらゆるから揚げの中で一番好きである。

 

あまりにも好きなので、カレー屋であることに一切の配慮なく、毎回ノールックでから揚げ定食を注文していると、ある時から、席に着くと店員のおばちゃんが「アレね」と言って、何も言わなくても注文が通るようになった。この辺りでから揚げをよく食べる兄ちゃんと裏で呼ばれていることを知った。

 

さらに一年ほどから揚げを食べに通っていると、戸を開けて、おばちゃんと目があった瞬間に、あ、こいつきたんだなという感じの軽い笑みが飛んできて、こちらが「どうも」といった表情をすると、それだけで注文が飛ぶようになった。あうんのから揚げである。ある日、おばちゃんは「ドアの向こうでも気配で、あ、来たとわかる時がある」と言った。から揚げを食べたいオーラというのは抑えることができない類のものであるらしい。

 

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おばちゃんはかなりテキパキした人で、水がコップの半分を切ると、速やかに水を注いでくれる。軽く二三の四方山話などして、から揚げを食べる。夜は人もまばらでテレビが流れ、静かに時間がすぎる。全てを棚に上げて、虚脱モードで過ごせるのがよい。夕飯のためのよき定食屋である。

 

東京を離れることが決まった日もヨッチに行った。五年食べ続けたから揚げともしばらくお別れだ。から揚げを食べながら、もうすぐ引越しなんですよと言うと、おばちゃんは「東京なんてねゴミゴミしてて、人の住むところじゃないからね」と言ってテキパキと水をついでくれた。から揚げは、やはりやたらと美味かった。