営業終了してしまったホテルニューアカオ。いきなりのことだったので、古いホテル好きの人たちの間で、悲しみの声が上がっている。単なるホテルというだけではなく、その個性的な姿は、ひとつの熱海名物のようなところがあった。一回いったことがあるだけのにわかではあるけれど、さる春の日の熱海旅行について書こうと思う。
熱海のホテルニューアカオ、営業終了 コロナで1年以上休業 [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル
エントランスのデカすぎるバブリーシャンデリア。
ホテルニューアカオは、熱海駅から比較的離れている。駅近くでバスを捕まえ、ぐぐっと坂を登っていくと、崖にへばりつくようにして、屹立する巨大ホテルが見えてきた。ほとんど崖と一体化していると言える。巨大ホテルというのは一般的になんとなく不気味さを感じるものであるが、ホテルニューアカオは、どこかのパーツを抜いたらジェンガのようにして全てが崩れ落ちるのではないかという独特の不気味さがある。
チェックインをして、荷物を置き、あたりを散歩する。崖にそって、階段が敷かれており、海まで降りていくことができる。草木が階段を覆うように茂っていたり、苔むす岩が目の前に出てきたりと、庭園が横ではなくなぜか縦方向に伸びているかのようである。いったい、なぜこんな険しいところに、ホテルを建てようと思ったのか……
ホテルから下を見ると、青々とした海が静かに飛沫をあげているのが見える。どこまでが崖でどこからが人工物なのかも曖昧なのが楽しい。
ホテルの中は昭和の息吹を瓶詰めような空間が広がっている。なんと絢爛なシャンデリアだろう。これが昭和のパワーだぞ!と見せつけられているかのようである。購入後最低7年が経過していると思われるしわしわのシャツをきてで来るべきとことでなかったのではないかと、何やら自省的な感情が沸き起こってくる。
しかし、これが宿泊営業をやめてしまうのか……採算などがどうなっていたのかは知る由もないが、大変もったいないなと思ってしまう。
窓には熱海が一面に広がっている。見ての通り、熱海の中心地からはやや離れている。静かである。保養をするのに大変良い環境だと思う。何もせずぼーっとしていたくなる。
螺旋階段も無駄に豪快である。
部屋に戻り、窓際の椅子に腰掛ける。窓を開けると、潮騒が忍び込んでくる。熱海の洋菓子屋三木製菓で買ってきたクッキーを食べる。良い休日である。三木製菓のクッキーはTwitterのフォロワーに教えてもらったのだけど、かなりうまい。
ニューアカオの近くに、吉茶松濤館という台湾茶を出す店があると在華坊さんのブログ(
江之浦測候所、熱海「吉茶松濤館」、ホテル大野屋 - 日毎に敵と懶惰に戦う
)を昔読んだのを思い出し、その場で電話してみると当日でも大丈夫と言うことだったので、行ってみることにした。
ホテルニューアカオ周辺はなかなかハードな道がある。
ああ、生い茂る草木よ……
何段あるのか分からない階段が続く。


石段を抜けると、舗装された道に出る。この道もそれなりに角度がきつい。春の日和にこの運動量は著しくハードである。シャツなどを脱ぎ、半袖になっても汗がほおを流れ続ける。
重くなり続ける体を必死に引き上げること20分弱、ついに吉茶松濤館にたどり着いた。資本家はタクシーで行ったほうが良いと思う。こんな山の上に、台湾茶の専門店があるのか……不思議である。
戸を開けると、梁が幾何学的に広がり、椅子、テーブルを中心とした、なんとも詫び詫びな空間があった。
中央の席に案内された。
まず、茶菓子がやってくる。左上から月餅、梅のゼリー、チョコレート、桜餅(だったような気がする)どれもやたらとおいしい。花は庭で取れたものが添えられていると店主の方が言っていた。おしゃれである……
店主が、台湾茶を入れる準備をしてくれる。現地に、直接買い付けに言っているらしい。


こうしたら、勝手にお茶が入っていきますからねと言って店主は去っていった。茶海(したのやつ)に突っ込まれた茶壺を眺める。


大変良い香りだった。一口サイズなので、無限に飲めてしまう。
茶菓子が終わると、小籠包がやってきた。生姜と黒酢での海をレンゲに作り、小籠包を載せて、口に放り込む。噛むと汁が流れ出て、口内が熱で限界に近づいているのを感じな。さっぱりしていているが、よい旨味がある。
中華おこわもそれぞれの具が大きく、抜群においしい。


そして、しめに豆花を……
2時間ほどかけてお茶とご飯を満喫し、もうこのままここに住みたいと思いながら、店を後にした。三人からだとコースもあるらしいのでいつか行きたい。配偶者は在華坊さんて人まじなんなの、いい店知りすぎでしょと、感激極まって変なテンションでそんなことを言っていた……
そして、熱海の街中に戻り、起雲閣などを見て、正しく熱海観光をして、ホテルに戻った。
食事処のホールへ向かう道も華やかである。
真っ赤な廊下を抜けると、どでかいホールに出る。ここで夕飯を食べる。ここまででかいとなると、個人旅行をいくら集めてもなかなか難しいだろう。おそらく昔は社員旅行で賑わっていたのだろうなと思う。
夜なのでわからないが、左側が水族館の大規模水槽のようにでかいガラスがはってあり、そこから海が見えてとにかくダイナミックなのである。
朝の図
ドレスを着た女性が三人出てきて、情熱大陸などを演奏する。情熱大陸が、この雰囲気にあっているのかというと、甚だ謎なのだけど、営業が終わってしまった今となってはその謎も愛おしいことであるように思われてくる。色々出てきたが、炊き込みご飯とお新香が美味しかった。
部屋で深夜のおやつを食べる。やはり三木製菓である。"三木"かつネズミというのは大変深い感じがする。
三木製菓の猫の舌というクッキーが口当たりが大変滑らかで、ただならぬ中毒性がある。熱海の至宝といって差し支えない。
引き続き演奏があるということで、朝行ったバーラウンジへ。
流石にバーなので、情熱大陸ということはなくなにか落ち着いた感じのする音楽だった(忘れてしまった…)
ニューアカオのオリジナルカクテルを頼む(名前は忘れてしまった…)マスカット系の味がするカクテルだったような気がする。
有名なニューアカオのロゴ。こうやって書いているとギムレットには早すぎるなんて言葉が浮かんでくる。
演奏者の後ろには粒々に輝く熱海の夜景が広がっている。熱海の魅力は留まるところをしらない。ホテルニューアカオによい未来があることを願ってやまない。さよなら、ホテルニューアカオ!