今夜はいやほい

きゃりーぱみゅぱみゅの「原宿いやほい」のいやほいとは何か考察するブログ

午後三時、老夫のコーヒー

ツイードのジャケットを着た老夫は、ニタニタと一人笑い、タバコに火をつけた。骨張った指に挟まれたタバコはPeaceだった。薄暗がりの店内でタバコはぽっと灯り、白煙を立ちのぼらせた。んー、んーと言葉にならない声を一つのリズムにニタニタ笑いの老父はタバコを吸った。

 

左には、やはり老夫が座ってた。左の老夫は、スポーティーなスニーカーを履いていた。コーヒーもそこそこに、机に小銭を並べ一枚一枚手にとっては、しげしげと眺め、右に左にその小銭を仕分けしていた。ショパンにあわせ、チャリチャリと銭は不規則音を放っていた。

 

なお、僕には大した教養がないので、これはきっとおそらくショパンであろうという、推察的ショパンである。コーヒーをすすった。窓の外を見ると、隣家の壁のポスターの中で岸文雄が笑った。岸文雄の両隣には、どぎついピンクのれいわ新選組が光に照らされていた。そっと視線を店内に戻した。

 

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左斜45度にもやはり老夫がいた。老夫はニット帽を被っていた、スマホをのぞき、眉をかしげ、2回/分で何やら自らの口をもぐもぐと動かし、舌をびよんとだしていた。老夫の口の中では、どうやら入れ歯が落ち着きを失っているらしい。ニットの老人はショパンを浴びるようにして天井を見上げた。

 

カウンターの奥ではマスターが限りなく小さな音でテレビを見ているようだった。ショパンの隙間にかすかな笑い声が聞こえた。

 

雑音を全く許さない名曲喫茶というものは、それはそれで良いことも多いのだが、やはりなんというか幾ばくか居心地が良くないこともあり、まあ、これくらい雑なものが良いのかもしれないなと思った。茶請け的に出てきたカントリーマームを食べた。いやカントリーマームではない、カントリーマアムであった。ツイードの老夫の煙が店内に広がってきた。んー、んーとやはり男はしきりに唸っていた。

 

硬貨チャリチャリ男は頭を垂れて眠りに落ちていた。死後の世界というのは、おそらくほぼ間違いなくないのだろうが、もし万が一あるのだとすれば、それは雲の上をふわふわと浮かび、苦しみもなく甘美さだけがあるというようなものではなく、がちゃがちゃして、なんか、ちょっとかび臭いような、この程度のものなのだろうと思った。