今夜はいやほい

きゃりーぱみゅぱみゅの「原宿いやほい」のいやほいとは何か考察するブログ

騙し絵のような構造の別府の宿に迷い、陽光荘で地獄蒸し

夏の終わり、別府に行った。温泉というのは、いつ入るのが適当なのかということについては様々な議論があるが、夏の終わりというのは一つ有力な候補なのではないかと思う。つまりは、最適な時期に別府に来たということなのである。

 

僕は、前回別府に来た時、温泉にほぼ入ることができない謎の旅程を組んでしまったので、今度こそは、温泉に入るのだと、別府の中でも極めて温泉の多い、鉄輪という地区に宿をとった。

 

宿は、湯治の宿の貸し間を予約した。湯治というのは、一定期間、温泉にかよって、体の悪いところを治さとす温泉治療的なやつである。貸し間というのは、これまた、詳細を説明するのは手に余るので、各自ググってほしいのだけど、旅館やホテルのように、何かサービスがあったりするわけではなく、その字の通り、ぽんと、部屋だけ貸し出され、掃除なども自分でやってよねといったかんじの、中長期型の宿泊形式である。

 

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残念なことに僕は賃労働者なので、長期滞留することができない。悲しいことである。本当であれば、温泉、畳の上で昼寝、温泉、酒でも飲んで、また温泉といった感じで無限にダラダラしたい。

 

荘に入ると、スタッフの人が受付をしてくれた。薄暗がりの通路を抜けると、ちょっと下がったらちょっと上がって、右に曲がって少し下がって、長い階段を登って左に曲がり…といった調子で部屋についた。そう、陽光荘は、いかなる経緯でこうなったのか考えてしまうような不可思議な構造をしているのだ。一度出たら、この部屋に戻ってこれるのだろうか不安を感じるレベルだった。

 

陽光荘(HPがなかなかいい味を出している)

http://www.ctb.ne.jp/~yokoso-ryokan/

 

構造の複雑さの一端を感じさせる写真である。

 

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廊下直通のふすまを開けた。風でカーテンが揺れていた。ところがしかし、夏の名残で部屋は普通に暑かった。各部屋は廊下をはさんで、ふすま一枚で区切られている。めぞん一刻の一刻館を思わせる。

 

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棚になにか入っているなと覗いてみると、いろいろな自炊装置が入っていた。ある程度長く過ごす人が多いので、そういうものが置かれているのだろう。

 

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「クーラーってあるんですか?」

 

「いや、ないですね、すみません」

 

「いえいえ、ぜんぜん大丈夫です」

 

けっこう暑いけど寝れるかな…とやや不安になりながらそう答えた。部屋には、ごつい機械があった。これは推察だが、おそらく、温泉を引き揚げてきて、空間をあっためる的な装置であると思われる。

 

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少し休憩して、近くの売店に行った。同じ宿から来た人がいたようだった。彼は手慣れた手付きで温泉卵を選んでいた。店の老婆と和やかに話し、またね〜と言って去って行った。やはり湯治の貸し間は長く滞在する人がいるのだなと思った。売店で、海老とビールを買った帰った。陽光荘は蒸気がバンバン出ているので、地獄蒸しができるらしいのだ。

 

朝何も食べていなかったので腹が減った。別府というのは、冷麺が有名と聴いていたので、近所の定食屋に行ってみることにした。

 

ひかり

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職人気質のピシッとしたおっちゃんと、おだやかそうなおばちゃんが給仕をしていた。静かな店内に、テレビが小音量で響いていた。いかにも定食屋といった感じである。本当に本当に小さな机に案内された。隣のひとに肘があたらないように気をつけて座る。目の前にぐるぐると扇風機が回っていた。当初予定通り、冷麺を頼んだ。

 

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比較的長い距離を歩いていたので、体がかなりの熱を保持していた。ほおをつたう汗を鬱陶しく思いながら、あついあついと呻いていると、冷麺が来た。別府冷麺だ。出汁が凍っているではないか。なんともいえず冷ややかである!

 

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目の前で周り続ける扇風機の風にあたりながら、別府冷麺をすする。バチバチに冷たい。体感的には、近年食べたものの中で最も冷たかった。アイスなど目でないのである。二三口食べると体の芯が冷えていくのを感じた。

 

麺をずずずっと吸い上げるのだが、冷たさに消されない蕎麦の香りがする。なかなかコシも強い。写真だとわかりにくいのだが、卵の下にはキムチがこれでもかと盛られている。このキムチが、自家製のキムチらしいのだが、なかなかの発酵具合で、口に放り込むや否や、きゅーっと来るタイプのやつなのだ。まぜてしまうと、全てが強烈なキムチ味になってしまうので、あまり混ぜずにそれぞれ独立させて食べるとよいなと思った。

 

これはかなり好みが分かれそうな食べ物だ。冷たさ、麺のインパクト、キムチ、それぞれの主張がすごいのである。しかし、その要素が喧嘩せずに調和していて……などという通り一遍の処理は不可能であった。それぞれがそれぞれに威圧的だが、結果的に勢力均衡しているというような感じがした。僕は、食べて良かったと思った。なんというか夏の終わりのシメにキマっていると思ったのだ。外に出ると、体がぶるっと震えた。体温が2度ほど下がったような気がした。

 

そのまま、鉄輪温泉名物の地獄めぐりをすることにした。イカした看板が立っている。

 

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夕飯を食べに、別府市内に降りていく。大分といえば関サバ、関あじ、とり天などなど、それはそれで大変うまいものだが、別府が地元の友人に聞いてみたところ、いや、別府にきたのであれば、まず第一にチョロ松にいって”カモ吸い”を食べねばならぬのだよ、と言われた。「かもすい?それなんなんですか?」と音だけ聞いただけではよくわからずに聞き返すと、「かもすいはかもすいなんだよ」と言われた。

 

ということで、チョロ松に行ってみることにした。

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スープを飲んだら、理解した。なるほど、これが別府民が愛す食べ物なのか…と。鴨の出汁がよく出ていて、旨味がつよい。そこそこしょっぱいのだが、麺とよくあい、酒がすすむのだ。極めてラーメン的なのだが、しかし、やはり鴨の出汁が強いので、これはかも吸いなのだなと思った。しめのラーメンが別府ではおそらくかも吸いなのだなと思った。

 

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もう一軒よって、バスに乗り込んだ。パーカーを脱いで、横の席に置いておいたら酔っていたので、バスに忘れてきた。夜は深まっていた。月明かりが強かった。

 

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猫が目の前を駆けて行った。

 

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鉄輪の町は、至る所で蒸気が噴出していた。

 

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とりあえず、温泉につかった。大変あったかかった。温泉は良いものである。脱衣所で、他の客が入ってきたのだけれど、こんばんはと挨拶をされた。貸し間なので、逗留者同士挨拶をかわす文化があるのかもしれないなと思った。こんばんはと返して部屋に戻った。

 

布団に転がった。違和感があった。布団に転がったのに、やたらと硬いのである。うむむと見てみると、なんと布団は座布団よりも薄かったのである。これはなかなか新しいタイプの布団である。しかし、酒とは偉大なもので、その違和感もすぐにぼんやりとして消えて行った。

 

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断続的に温泉に入っては、布団的なものに寝転がるをくりかえしていると、あ、そうだ、海老を買ったのだと思い出した。暗く静かな廊下に共用で置かれている冷蔵庫を開けると、海老、加えてキンキンに冷えたビールが照らされていた。廊下で、一人小さく笑った。

 

騙し絵のような構造の階段と廊下を通り、自炊場にやってきた。

 

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四角い釜的な構築物に蒸したいものを入れておくと自動的に、灼熱の温泉蒸気で神羅万象が美味しく蒸しあがるというものなのである。便利だ!

 

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では、地もの、極上の文字が輝かしい車海老をですね、そっと取り出すわけでありますね。

 

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備え付けのザルに入れるわけであります。

 

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そして、さっきの四角い構造物に放り込んでおくわけです。

 

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あとは、ぷしゅっとビールを開けて、ぼーっとしているだけである。外なので、夏の名残の空気を感じる。かすかな蒸気の音以外はとても静かである。なんということのない時間なのだけれど、無駄に贅沢な感じがした。

 

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蓋をあけると、エビが赤々と蒸しあがっていた。ぴゃっと塩をふって殻を剥く。むしゃりと食べた。シンプルだけどうまい。

 

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蒸し立てのものはプリプリでうまい。毎日、温泉入って、散歩をし、地獄蒸しをして、夜風の中を酒を飲む。もし、一週間あれば、なんて思う。しかし、まあ、未練がましいくらいが一番楽しいのかもしれない。

 

今度こそ温泉にたくさん入るぞと思っていたのに、振り返れば、結局、宿の備え付けのものしか入っていなかった