夏は、すなわち川である。
ツイッターに、毎年、静岡県の三島市は、富士山にたまった大変冷ややかな水がいたるところで湧き出ていて最高とツイートされている方がいる。僕はそれを目ざとくいいねしていた。冷水にひたりたい。これこそ、夏ではないか。電車に乗って、JR三島駅へと向かった。静岡というのは、埼玉から行くとまあまあ遠いがちょっとしたおでかけとしてはいい感じである。

三島駅に着いた。屋根が緩やかに湾曲しており可愛いらしい駅舎だ。日差しが強く、濃い影が道に落ちている。あまり混んでいないようでとてもいい。観光客っぽい人は全然いないようだ。Googleマップで湧水と検索すると、南方で大量に検索に引っかかったので、駅から南へ向かって歩いていくことにした。

陽射しがするどい。いやあ、夏だなあ。これは本当に夏だなあと一人つぶやきながら歩く。ものの数分歩いただけで、くらくらしてきて、たえられなくなって市の文化会館で休むことにした。学生たちが、真面目そうな様子で勉強をしている。残念なことに、いまいちクーラーの効きがよくない。体を冷やすため、自販機で茶を買ってごくごくと飲み、駅に置いてあったパンフレットでぱたぱたと仰ぐ
10分ほど休んで体が落ち着いてきたので、また、歩き出すことにした。外に出ると容赦ない日差しが続いていた。文化会館のそばには、公園があった。子供たちの声が響く公園には、草木の間を一寸のくもりもない清流が流れておりとても涼しげだった。これはいいなあと思った。そう、これを求めて静岡までやってきたのだ。

源兵衛川というつめたい天国
歩き進めると、源兵衛川に合流した。日差しも強いので、川底までくっきりと見える。素晴らしい透明度で、労働によりつもり重なった澱を洗い流してくれそうな感じさえある。なぜかは不明なのだけど見ただけで冷たいことがわかる。橋のわきにある階段で、川へと下りて行く。

川に手をひたすと、びっくりするくらい冷たい。ぎんぎんに冷えていて、ずっと手を付けているとちょっと痛いくらいである。めちゃくちゃ気持ちいい。汗をかいたので、腕までつけてみる。ああ、夏だ。これだ。きりきりとてりつける太陽に、富士山が生んだ冷水。自然の並々ならぬ力強さを感じる。

さきほどまでのだるさが一気に引いていった。この源兵衛川というのは、16世紀に地元に名士が作った農業用の水路で、昭和の一時期はかなり川が汚染されていたらしいのだけど市民や行政の努力で、またここまできれいな状態に戻ったらしい。とんでもない綺麗さで、普通に飲めそうなかんじすらある。
川は浅く、歩きやすいように敷石がならんでいた。歩いて行ってみることにした。川は木が生い茂っており、川も冷たいので、なかなか涼しい。天然のクーラーである。

水草も涼しげである。

めっちゃいいな。こんなところが地元だったら最高だろうなと思った。よそ者の勝手な感想だけれど、もし、三島市に生ま育ったら、就職で東京に出て行っても、折にふれ、三島に戻って来たくなってしまうだろうなと思う。
敷石を快調に歩いていたのだけど、途中から敷石が水に侵されてしまっていた。僕は靴を脱いで足を水にさらしながら、川を歩き進めた。観光客は少ないのだけど、一組、台湾人っぽい人たちがいた。三島市まで旅行に来たのだろうか。日本に住んでいる方なのだろうか。

光ってる。きらきら川面が光ってる。

10分くらい歩くと、敷石が終わって、ちょっとした広場のようなところに出た。子供たちがたくさん遊んでいる。

川を使いこなす三島市民にならい、川のふちに腰かけた。揺れる川を見ているだけで無限に時間を過ごすことができる。印象派の絵画か?などと思いながらぼーっとする、川は最高である。そして、この源兵衛川は川のなかでも屈指の川である。

川底はゆらゆらと揺れている。
そこらへんで買った炭酸水を冷やす。

目の前をアヒルが通っていった。

アヒルが川からあがると、そこには、なぜか鶏もいた。どういうことなのだろう...ここは人類のみならず、衆生すべての憩いの場であるようだ.......
足を川から引き揚げて、体育座りでしばし過ごす。足が乾いたので、靴を履いて川を後にした。
果物屋のフルーツジュースのうまさよ
川の近くにフルーツ屋があったので、フルーツジュースを購入した。

このジュースが大変美味しかった。この暑さの中で、果物屋のフレッシュなジュースを飲むというのはとてつもない癒しである。僕は、このジュースはライフタイムベストフルーツジュースかもしれないと思った。

静岡おでんで夜は更けて
静岡市まで足を延ばした。さくらももこの「静岡市はいいねえ」というセリフがいたるところに掲げられていた。

夜、静岡おでんを食べた。

青葉おでんと書いてあるこの道には小さなおでん屋が密集してた。たくさんありすぎてどこに入ればいいのか分からない。いったん奥まで歩いてみる。いくつかの店の人と目が合った。折り返してくる。目が合った店の中で空席だらけでもなくぎちぎちに人がいるわけでもない店を選んで入ってみることにした。
とりあえず日本酒をもらうと店員のおばちゃんに「うちは、この辺では最古の店のひとつなんだよ。いい目をしているね」と褒められた。僕は、ベテランの佇まいのおばちゃんのオーラにやや緊張しながら日本酒を飲んだ。
ひー暑かったなと思いながらあまり何も考えず「甘めで美味しいですね」ととりあえず口に出てきた言葉をそのまま放つと「これは辛口だよ」と返事が返ってきた。僕が適当な人間であることが一瞬でばれてしまった。
「うちは、ゆで卵を殻ごとつけてあるんだよ。これがこだわり。こうすると縮みにくいんだよ」と教えてくれた。台湾みたいだ。
殻をむいて食べた。殻があることがどのように影響しているのかいまいちわからないのだけど、確かに、なんか美味しい気がした。
青海苔と粉末状のかつお節を振りかける。静岡おでんというのは、この粉に特徴があるらしい。
(とか言いながら、写真を撮り忘れた....)

ビールに切り替える。牛すじをたべる。クーラーを浴びながら食べるおでんというのもなかなかいいものである。さくらももこを思い出し、静岡はいいねえと思った。川、ジュース、夏のおでんにビール。もう、なんか夏のほとんどすべてだったなと思った。
ところでこの9月に本を出しました。旅行記がたくさん入っています。よろしくお願いします!!!!
静岡では以下の書店でお取り扱いいただいているよ
南伊豆町 TORCH
静岡市 HiBARI BOOKS & COFFEE
静岡市 吉見書店 長田店
掛川市 本屋すみれ
磐田市 谷島屋 ららぽーと磐田店
浜松市 ブックアマノ 布橋店
