今夜はいやほい

きゃりーぱみゅぱみゅの「原宿いやほい」のいやほいとは何かについて考察するブログ

嵊山島上陸、廃墟となった後頭湾村で犬が吠えた 中国廃墟潜入編④

前: 出上海、一路、枸杞島へ。船でお姉さんは絶句した、酒が必要だった 中国廃墟潜入編③ - 今夜はいやほい

 

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「ついた!ついたぞ~!!」僕は4時間閉じ込められた閉鎖空間から解放された心地よさでいっぱいであった。

 

「じゃあ、市内のほうへ向かおうか」というと、加藤が「いや明日のチケットを買っといたほうがいいですね。チケット取れなくて帰れなくなると最悪なので」

 

確かにそれもそうだ、さすが加藤は旅慣れているな、と感心しつつ、枸杞島のチケット売り場へと向かった。加藤が、明天、上海、票!みたいな、原初的なコミュニケーションを試みる。

 

カウンターの若い女性は、わかりやすく 困惑し、紙何かを記した。漢字文化圏の我々は筆談によるぎりぎりのコミュニケーションが可能であった。明日のチケットは估计でなんとかかんとかという文字が記されていた

 

なんだこれは、どういうことだと4人で頭をそろえて解読を試みる。汁が枯れているのか?……わからない…カウンターの前で、汁が枯れている問題に4人で頭を悩ませていると、上司的な強面な女性がやってきた。彼女は我々に、全力の中国語で何かをしゃべり続けた。ほとんど怒鳴り声に近い覇気だったので、我々は困り果てた。強面な上司は、我々に漢字で何かを書いた。”ホテルで聞け”と書いてあるようであった。

 

仕方がないので、我々はチケット売り場を離れ船着き場へと戻った。乗客待ちをしていたタクシーが消え去っていた。

 

「あれタクシーは?まずいですね、どうしましょう」山田がタバコに火をつけた。

 

「ああ!ちょっとまって、もしかして、これ、明日、風の影響で、船がでないということなのでは!?!?枯れ汁は推計するって意味らしいです……」加藤は珍しく非常に焦っていた。

 

 

「え!明日帰れないってこと!?」僕は、労働者であったので、帰れないと非常にまずい状況であった。

 

 

「そうですね、まだわかりませんが……どうしましょう… 明日帰れないと、そもそも僕たち金が尽きる心配がありますね…この島にATMがあればいいですが、下手したらないかもしれません…

 

「金がなくなったら……どうすればいいんだ!?いくら上海から4時間の小さな島でもATMくらいさすがにあるのでは!?日本大使館に電話か?」僕は非常に動揺した

 

 

「仕方ないのでとりあえず宿まで行きましょう」加藤もさすがに狼狽しているようであった。

 

 

「でも、タクシーいないよ、歩いて行ける距離なの?」

 

 

「いや厳しいですね…」

 

 

「まじかよ……」

 

 

「限界的状況ふたたびですね」オネットは少し楽しそうだった。

 

 

我々は帰宅手段が消え去り、市内への交通手段も無くなり、挙句の果てには、資金繰りリスクが発生していた。港で立ち尽くした。強面上司に怒鳴られたのも地味に精神を疲れさせていた。しばらく呆然としていると、ぼろぼろのトラックが港へやってきた。

 

「もはやヒッチハイクしかないのでは?」本当に限界的な状況だなあと思った。

 

加藤は走っていき、交渉を始めた、しかし、トラックの運転手は、わけわからない外国人だなあと言った調子で取り合ってくれなかった。

 

「遠いんだよね…?」

 

「そうですね」

 

「うーむ」

 

「まあ、いっか」

 

「いや、やばいのでは?」

 

「いや、まあいいいのだ」

 

「うーむ」

 

「ホッホッホッ」

 

などと男4人で悲しみにさざめいていると、なんと気まぐれにタクシーがやってきたのだ。たすかった!歩かないですむ! タクシーはとにかくボロボロで四方に大きな傷が入っており、左前のライトのところなどは、表面の鉄板がボコっとめくれあがっていた。一体何回事故を起こしたのかわからない、暗黒のタクシーだったが背に腹は代えられないので乗車を決めた。

 

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タクシー事故を起こすことなく20分ほどで、宿に到着した。思っていたより宿はちかいところにあった。

 

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真っ青な宿であった。荷物を置き、すぐ嵊山島へと向かうことにした。タクシーは宿番のおばちゃんが用意してくれた。

 

タクシーは車線という概念を盛大に無視して、時には左、時には右を走りながら、軽快に島を駆け抜けていった。海からの風が車内に流れ込み、ようお前らよく来たなと言っているようであった。

 

橋をわたった。なぜか島に似合わない非常にリッパな船であった。ついに嵊山島に上陸した。

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僕たちの目的地は嵊山島の廃村であった。かつては漁村として栄え2000人ほどの人が暮らしていたらしいのだが、今では、村は荒廃の一途をたどっているようであった。

 

タクシーは島の頂上近くまで上っていった。そこは大変な田舎だった。

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タクシーから降り、とぼとぼと峠を超えると視界が一気に開けた。見下ろすすべてが無人の廃墟だった。ついた!ついについたのだ!!僕たちはにわかに沸き立ち、はやくいこうと、廃墟への道を威勢よく下っていった。

 

 

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草は元気に生い茂っていた。デスクワーカーには恐ろしいほどの急こう配であった。道すがら韓国人の若者二人とすれ違った。きっとかれらも、同じようにネットの記事を見たりして、ここまでたどり着いて、同じようにSNSに写真を上げているんだろう。こんなところにまでワールドワイドウェブの力が及んでいるんだなあ。

 

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15分ほどかけ下へとくだっていく。街の中心部まで降りてきた。薄雲やがかかっていて、廃墟ははかなさを漂わせていた。

 

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天井が抜け落ちている

 

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細い道をどんどん下っていく

 

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港まで出た。

 

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とても静かで波音が響いていた。

 

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崩れ落ちていく村は幻想的だった。ひとびとの生活の痕跡が所々に残っていた。よく来たなあ。頑張ったなあと、我々はねぎらいあった。僕が、ここに来れたんだから、もう世の中の大体のところに行けるだろうなあと言うと、加藤は少しうれしそうであった。

 

疲れたなあと腕を上げ伸びをした。ふと熱力学の法則が頭をよぎった。僕は文系なのであまりよくわからないのだが、熱力学にエントロピー増大の法則というやつがある。熱が拡散するように、人は死ぬし、街も壊れる。こんなに必死に動き回っても、エントロピーの増大に寄与しているだけなのだなあ。巨視的に見ればとにかく圧倒的ダイナミズムで世界は拡散の一途をたどっているのだ。物事は大きな法則なのだ。

 

そんなかんじで、崩れた家を見てなんとなく世界の法則に思いをはせたり、なんでこんなところまで来てしまったんだろうというおかしさについて笑ってみたくなったり、そもそもこんなところに、行こうぜ、いいですよ、と二つ返事でのってくれる友人が何人かいるということにうれしくなったり、僕の感情は第七官界を彷徨し始めていた。中国の片隅の小さな小さな島の廃墟で僕はとにかくとてもいい気分になっていた。野良犬が二匹こっちを見て、なんだこいつらといった調子で、厳かにバウバウと吠えた。

 

つづくかもしれない

出上海、一路、枸杞島へ。船でお姉さんは絶句した、酒が必要だった 中国廃墟潜入編③

前:

響きと怒りのチケットカウンター、南浦大橋で声は破裂した 中国廃墟潜入編② - 今夜はいやほい

 

われわれの目的地は嵊山島(しぇんしゃんとう)だったのだが、そこへ行くためには、まず枸杞島(ごうちとう)に上陸する必要があった。 

 

霧ははれてきたものの、上海の空気はかなり汚れており、車窓からの景色はぼんやりとしていた。汚染の影響なのか、バスの中でものどがじんわりと痛くなった。

 

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1時間ほどバスで寝ていると、船着き場に到着した。ここは、上海の離れ小島のようなところで、嵊泗列島行きの船がここにから出ているのである。

 

バスを降りる

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船のターミナルは、人でごった返していた。

 

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島へ向かっていく人たちは、漁業従事者が多いのか、肌が焼け屈強な体躯をしていた。そして、やはり、話し声がとてもおおきかった。ヘビースモーカー山田は、もし島まで行ってたばこが売ってなかったら死ぬと言い、喧噪の中、たばこを探し、さまよっていあるいていた。

 

「山田くんは早くも、偉大な中国人民に溶け込みだしましたね」加藤は楽しそうに言った。

 

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いよいよ、船へ乗り込むことになった。

 

「なんだかすごい乗り込み口だね…難民になったような気分だ」などと誰かがつぶやいた。僕は、カイジの世界に迷い込んだような気がした。

 

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 船は非常に狭かった、椅子は硬く隣との距離も非常に近かった。そして、その船に乗る中国の人々は、やはり、耳をつんざくような音量で会話をしていた。まだ、会話の内容が分かれば、気にならないのかも知れないが、全く意味の分からない会話を大音量で聞くのはそれなりにしんどいことなのであった。

 

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 「これに、僕たち4時間乗るんですよね…」と山田は絶望的な声を上げた

 

「あくまで順調にいけば4時間といったところですね。この狭さ、うるささ、椅子の硬さで4時間はなかなか限界的状況ですね」と中国語にかき消されながら加藤は答えた。

 

「つらい、もしかしてけっこう揺れたりするんじゃないの?やっぱり吐く人とかいるのかな」僕は大変不安であった。

 

「吐瀉袋はあるみたいですね」加藤は前の椅子背中にあるポケットから袋を取り出した。

 

「うーむ、これは確かに限界的状況だ」僕は、やはり暗澹たる気持ちであった。

 

しばらくすると船は動き出した。さらば、偉大なるアジアの大地!などと心で唱えて、ひとり景気づけをした。

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ひとつよいことが判明した。 船は予想していたほど揺れなかったのである。とりあえず、吐き気に襲われることはなさそうだなと安堵した。10分くらいすると無限に動き回っていた乗客が徐々に席に着き始め、船に秩序が訪れ始めた。

 

「しかし、これはつらいですね。4時間このままというのは、完全にまずいです。」長動症に失陥している加藤は本当に発狂しそうな雰囲気だった。

 

「限界的状況だな……」僕がつぶやくと、山田も「限界的状況ですね……」とつぶやいた。我々は、限界的状況という言葉に面白さを感じ始めていた。

 

「こういう時は酒しかないんですよ。現状打破のため、ビール買ってきますね!!」と言い放ち、加藤は売店へと去っていった。

 

 神々しい青島ビール

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僕は大学生の頃第二外国語が中国語だったため、ほんの少しだけ中国語が分かった。そのため、啤酒!啤酒!などと騒ぎ缶を受け取った。おそらく10も記憶に残っていない、中国単語のなかで、ビール=啤酒は覚えていた自分の脳みそが非常に残念であることが分かった。 

 

なんかぬるいな、そして炭酸が弱い、などと文句をこぼすと、加藤は、青島ビールはそこがいいんですよ、と訳知り顔をしてうまそうにビールを飲んだ。僕も青島ビールは好きですねと山田もごくごくとビールを飲み干していった。加藤と山田はふたりとも麻布高校の出身であった。ふたりには、たしかに似たような何かを感じさせる瞬間が時折あった。

 

船は快調に海原を進んでいたが、特に景色に変化があるわけでもなく、ビールを飲み干した後、再び窮屈な閉鎖空間が生む限界的状況が訪れた。

 

「酒が足りないですね…ていうか青島ビールじゃ、アルコール度数が弱くて酔えませんね」

 

加藤は酒がかなり強かった。

 

「そうだね、確かに飲んでもいいけど、この辺にしておくのもありかと思うよ」と僕は良識派的な意見を述べた。

 

「あ、なんか紹興酒みたいな酒がありますよ」ヤマダはカウンターのほうを指さした。

 

「きくちさん、限界状況突破のためにはとにかく酒を飲み、意識を失うのが最も良いのです」そういうと加藤は小走りでカウンターへ向い、アルコール度数の高そうな酒を買ってきたのだった。

 

中国酒?

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「35%か、なかなか強いな、ちょっと待って、そもそも、どうやって飲むの?まさか回し飲み?」僕はまた、良識派的意見を言った。

 

「きくちさん、ビールの空き缶があるでしょ、それにいれるんですよ」加藤はそう言うと、酒を注ぎだした。

 

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「これ、本当に限界的状況だな……」と絶句していると、加藤の隣に座る同い年くらいの女性が”オーマイガッ、この外国人たちは…”といった表情を浮かべているのが見えた。

 

「加藤君、きみの後ろの紫のセーターの女性がドン引きしているよ」と告げると、加藤は持ち前のコミュニケーション能力で、「は、は、ごめんごめん」とにこやかに笑い、つまみに買ってあった煎餅を渡したのだった。

 

すると、女性はしょうもないやつらだが、悪いやつらではなさそうだと思ったのか、くすくすと笑い、お返しに飴をくれた。

 

僕たちは、なぜかいい感じにコミュニケーションが成功したことに、にわかに盛り上がり、軽快に酒を飲み進めていった。

 

「オネットは飲まないのか?」加藤が言うと「僕は本を読むんだ」と彼は本を取り出した。10分ほどして加藤はオネットの本をのぞき込んだ。

 

「何読んでるの?」

 

カポーティ―の冷血だよ」

 

「まだ10ページしか読んでない、全然進んでないじゃないか、やっぱり酒を飲むべきだ!」といい加藤はオネットの空き缶に中国酒を注ぎこんだ。

 

「健康酒って書いてあるね、じゃあきっとどれだけ飲んでも健康になるだけなんだろうな」僕は、酔ってきたのかややわけのわからぬことを言い、 そのまま酔いに任せて、眠りについたのだった。

 

目が覚めると残り20分ほどで枸杞島に着くような時間になっていた。日本から持ってきていた「青年は荒野をめざす」の文庫本を取り出した。主人公の青年は、今日、僕は冒険をするんだと決意し、モスクワへ向かう飛行機の中で添乗員をナンパし、ペーソスに満ちた音楽を味方につけ、”形式にこだわるな、感じたままに吹いてみろ!それがジャズだ”などというかっこよいセリフとともに身を焦がすようなワンナイトラブにいそしんでいた。僕は自分のほうがよっぽど荒野をめざしているのではないだろうかなどと思った。

 

東京から12時間、僕たちはようやく枸杞島に到着した。島の海は眠っているかのように穏やかで、きらきらと光っていた。

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 つづくかもしれない

響きと怒りのチケットカウンター、南浦大橋で声は破裂した 中国廃墟潜入編②

前  始まりの上海浦東空港、夜霧の南浦大橋、タクシーのメメントモリ 中国廃墟潜入編① - 今夜はいやほい

 

南浦大橋についた我々は、バスターミナルでチケットを買うべく列に並ぶことにした。我々の目的地は上海沖の小さな島の廃村だったので、空港に5時につき入国手続きを済ませ、市内のバスターミナルまで移動し、7時15分の嵊泗行きのバスに乗り込まなければならないという壮絶にタイトなスケジュールであった。チケットカウンターが開く6時30分に開くのだが、小さなバスで定員もあるので、可能な限り早くチケットを取らないといけなかった。僕たちはタクシーが尋常ではない速度で走ってくれたおかげで、無事カウンターが開く10分ほど前には、列に並び始めることができた。朝のターミナルには、混沌的活気がみなぎっていた。

 

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「腹が減りましたね」オネットが口を開いた。

 

「いやあ、タクシーが早かったからよい時間にきましたね」山田がタバコの煙のタバコを吐いた。

 

「あのタクシーじゃなかったら間に合わなかったかもしれないなあ」と僕が感慨深そうに言うと加藤が「そうですね、しかし、腹が減りましたね」と言った。

 

「そうだよ、腹が減ったよ、加藤君」オネットは大いなる食欲を持っていた。

 

「じゃあ、あそこの謎の食べ物買ってきますね」と言って加藤は、待機列を離れ、屋台へと走っていった。店番のおばちゃんと交渉を始め、それを4つくれと伝えたようだった。

 

「怪しい豆乳があるんですけど、ついでに飲みますか~?」と大声でこちらの列に向かって叫んだ。

 

「怪しいならいらないよ!」と叫び返すと、加藤は小走りで帰ってきた。

 

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ビニール袋からは湯気が立ち上り、お好み焼きのようないい匂いがした。そして袋の厚さなどというのはあってないようなものなので、びっくりするくらいに熱かった。しかし、これがとてもおいしかった。卵と鶏肉とちょっとした野菜が小麦粉の生地に挟まれており、ソースがべちょべちょに塗りたくられている。こういう雑なものは大概まちがいなくおいしいのである。

 

「うまい、あつっ」

 

「うまい、うまい、あっっつ」などと4人でその上海風お好み焼きをほおばっているとチケットカウンターが開いた。

 

さすがにこの並んでる人数なら乗れるだろうとぼーっと並んでいると、警備員のおじさんがつかつかと歩いてきて、何事かを叫んだ。中国語をよく解さない我々はそれがなんの意味を発していたのかよくわからなかったのだが、その絶叫を掛け声として、中国の人々は、列という概念を解体し右から横から、チケットカウンターになだれ込んできたのである。鉄の丈夫な柵などものともせず、チケットカウンターは人々であふれかえった。

 

女性が怒号を上げた。意味は分からないので、「触らないでよ、このじじい、なんなのその、わけわかんない帽子、まじセンスないんだけど」めいたことを言ったのではないかと思うのだが、とにもかくにも、それは築地市場も真っ青の怒号だったのである。

 

呼応するようにおじさんが怒号を上げた。「ああ?お前が割り込んできたんだろ?邪魔なんだよどけどけ、はやくどけ!!!」めいたことを言った。それはまことに正しく怒号なのであった。すると警備員のおじさんがとんできて、再び怒声を高らかに張り上げ、女性の方をぐわんとひっぱった。すると女性は天にも昇る怒号を上げた。

 

「なんなんだこれ、中国すごいぞ、列に並ばないというのは本当だったのか」とぼくは人々に押しつぶされながら言った。

 

「これは地獄絵図ですね、ていうかこのチケット変えないとまじでまずいんですよ」と加藤が喧噪に打ち消されないように大声を上げると、反対側の列で、男が鉄の柵を上から待機列に割り込もうとした。警備員のおじさんはまた、空気を裂くような怒声を上げ、「なにやってるんだ、おい!!!」めいたことを言ったのだった。怒声がすごいため、ほかの列に並んでいる人も大声で話し、周りの人が大声で話すから、よりより大声で話しといった、自己増幅を繰り返し、そのチケットカウンターは信じられないような量の色とりどりの声で満ちていった。

 

まだ朝7時前である。飛行機であまりよく寝れずくたくたになっていた我々は、その壮絶な光景にただ呆然と絶句したのであった。シェイクスピアマクベスの有名な一説にこんなものがある" it is a tale Told by an idiot, full of sound and fury, Signifying nothing" この一説はフォークナーの小説のタイトルにも「響きと怒り」として引用されている。かっこいいなあと思っていたのだが、今はその言葉は身に迫った感覚であった。ああ、人々の生活だ、響きと怒りが満ちているんだなどと、ぼくの意識は遠くのほうへと向かい始めていた。

 

響きと怒りを前に、オネットは立ち尽くし、山田はなにやらきょろきょろとしていた、僕は遠い世界へ向かっていった。ただ、加藤だけが、響きと怒りの世界を突き進んでいった。体を人々の壁の中にねじ込み、シーガピャオなどと言ってカウンターのお姉さんに身分証明書のパスポートを渡すことに成功した。加藤はほんとうにすごい男なのだ。

 

この加藤の偉大なパフォーマンスにより、我々は無事チケットを買うことができたのだった。朝から、信じられないほど体力を消耗し、よれよれになりながらバスに乗り込んだ。バスは満席だった。あと少し遅かったら上海まで来て、1日目にして計画がとん挫することろだったのである。

 

バスは柔らかな朝日が差し込んでいた。旅立ちのにおいがした。 

 

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 つづくかもしれない

始まりの上海浦東空港、夜霧の南浦大橋、タクシーのメメントモリ 中国廃墟潜入編①

さよなら、東京

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午前5時、上海空港の到着ロビーを出た。空港の無機質な空気を脱し、アジア的な濃度のむっとした空気にどわっと包まれた。ああ、異国に来たのだ。出口前で捕まえた、少し機嫌の悪そうな運転手のタクシーに男4人で乗り込んだ。

 

助手席に座った加藤がナンプーダーチャオ(南浦大橋)までと告げた。運転手は怪訝そうな顔つきで、理解したというようなそぶりをした。

 

「いやあ、上海着きましたね。いいですね。いつもなら本当は白タクを捕まえるために戦うんですけどね、今日は4人もいるので普通のちゃんとしたタクシー乗りましょう」

 

加藤は今回の旅行の立役者である。彼は大学の後輩で、現在は広告会社で働いている。髪がやたらとさらさらしているのが特徴なのだが、大学生の頃は鬱屈性を感じさせる目が隠れるほどあった前髪も、社会人になってからはきちんと目が見える位置に切りそろえられており、一見健全な人間ふうになったのだが、その実は大変な男なのであった。

 

彼は、長距離移動症候群に疾患していた。アジアであれば、ちょっとコンビニにアイス買ってきますくらいのノリで出かけていき、観光名所ですらないようななんでもない場所をうろうろしたりしているのである。とにかく移動することが大好きらしく、常にどこかへと出かけている。マンホールを見るために1か月もの間ソウルに滞在していたなどというよくわからないエピソードが彼を一番よく表しているように思う。

 

社会人になってからは月2回ほどの頻度で外国に行っているらしく、上海は15回くらいは行ってますね、ていうか先々週も行きましたから、なんていうことをこともなげに言うのだった。今回の旅は彼がいなければ成立しなかったことは間違いない。

 

運転手はカチカチとライターを叩きタバコに火をつけ、煙をひとのみするとアクセルを踏んだ。タクシー乗り場を抜け大きな道に出ると、窓の外が夜なのに真っ白になっていた。濃度の高い霧がそこかしこに立ち込めていて、上海の街は姿を消してしまったのであった。ユーミンの「雨の街を」の歌いだしの美しいラインがあたまに去来した、夜明けの上海も何やら怪しく美しくミルク色に染まっていたのだ。

 

「これはこれできれいだね。景色が全然見えないけど」

 

「そうですね。なかなかいいもんですね」

 

隣に座っていた後輩山田もふむといった調子で外を眺めはじめた。後輩山田は今回の旅行の最年少構成員でまだ学生であった。親しみやすい性格をしており、僕の友人たちの統合の象徴のような存在であった。また、彼はヘビースモーカーでもあり、タクシー運転手のタバコの煙をかいでは後部座席でソワソワとしていた。

 

運転手はタクシーの窓を開け、タバコを指ではじいて捨てた。タバコは火をともしたまま、真っ白な空間にすごい速度で吸収されていった。

 

「なんか、ちょっと速すぎない?気のせいかな、いやこれはやっぱり速いのではないか……?」とひとり禅問答をしていると山田が首を傾け鷹揚な目つきでオレンジに光っているメーターを見た。

 

「130キロですね」

 

世界があまりにも夜霧で真っ白だったので、よくわからなかったのだが、なんとタクシーは尋常ではない速度で走っていたのである。もちろんそこは高速道路だった分けであるが、ほかの車は霧がかかっていることもあり速度を80キロくらいで抑えているのである。そんなきわめて安全志向車をあざ笑うかのようにタクシーはウインカーも出さずに豪快な車線変更を繰り返し、15秒に1台のペースで車を抜き去っていくのだった。

 

 

僕たちは右にぐわんと曲がっては「おお…」と間抜けな声を上げ、左にぐわんと曲がっては「うわ…」と震え上がるのであった。

 

タクシーの運転手は、そんな僕たちの動揺を知ってか知らずか、もちろんウインカーを出すこともなく、前の横並びの2台を抜き去るべく、左はじから右端まで2列一気に車線変更をかましてきた、まじかよ、と思ったのもつかの間、そこからぐんぐんと車はスピードを上げ、左にまた車線変更をしたのだ。これが上海の洗礼かと肝を冷やしたのだった。

 

「僕たちは、死ぬのかもしれないね」とぼやくと後輩山田が「そうですね、上海で死ぬのも悪くないですね」などと不吉なことを言った。薄くあいた窓から空気が荒々しく入りパタパタパタという乾いた音が響いた。

 

ホッホッホという低い笑い声が車内に響いた。声の主はオネットであった。彼も大学の後輩で、現在は教育系の仕事についていた。どしんとした体系にスポーツ刈りで、将来は文士たることを志していたため、同期である加藤から、「きみは文豪なんだから」とよく冷やかされていた。男子一貫、寡黙たるを美徳とせよといったオーラを放ち、口数は少なかった。ホッホッホッという特徴的な笑い声をもっており、普段あまりしゃべらないことから、やたらとその笑い声が際立ち印象的なのであった。

 

 暴走タクシーは数多の車を抜き去り、目的地の南浦大橋を渡った。陽がだんだんと上ってきており、霧の向こう側がすこしづつやわらかく色づき始めていた。南浦大橋は非常に大きな橋で、上海の街が広く見渡せた。霧に包まれ、遠くには神経質に伸びる高層ビル群、近くには、いかにも中国的なバンバンバンといった強烈なフォントの看板が浮かんでいた。ぼんやり漢字が揺蕩う街は少し異世界のようであった。

 

僕たちはようやく、第一目的地であり、旅の始まりの地、南浦大橋のバス停にたどりついたのだった。バスを降り周りを見渡すと霧は陽にのまれ消えさっていた。

 

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つづくかもしれない(つづかない)

 

まゆゆの卒業ソング 「11月のアンクレット」がめっちゃすき

秋元康の歌詞の良さというのは、青春アニメの背景的な、デフォルメされた、わかりやすい思春期表象で詰め込まれているところなんじゃないかと思う。

 

AKBのシングル「11月のアンクレット」がそろそろ発売されるらしい。まゆゆこと渡辺麻友の卒業シングルだ。最近まったくいい曲がなかったAKB。しかし、今回はとてもよかった。ひさしぶりにザ・秋元康的な1曲だ。

 

セミボブの前髪かき上げ 

きみがほほ笑むウィークエンド

突然久しぶりに会いたいなんて どうしたんだ

意外に混んでるビーチハウス季節外れの待ち合わせ

(このカタカナ語の強引さが秋元康っぽい…)

 

ずっと仲が良かった女の子に突然会いたいって言われる。ふたりで、少し寒くなった思い出のビーチに行って思い出のパンケーキを注文する。なかなか来ないパンケーキ。 

 

女の子は薬指に刺さった指輪を見せつけてくる。

 

OK!君の勝ち!

さよならにこんにちは

僕より優しい人と出会えたのなら

しょうがないって諦められるかな

僕の負け!

 

なんで、季節外れの海に誘ってきたんだろう、空と渚から色が消えていく。昔、きみにもらったアンクレットのことがあたまをよぎる。

 

あの夏のアンクレット 今すぐに外そうか

足首の思い出よ まぶしい日差しの下で

寄せるさざ波 水しぶきまでせつなくなってきた

 

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誘ってもらえてうれしくて、でも彼氏ができていて悲しくて、でも幸せを祈ってあげたい気もして、でもなんで誘ってきたんだろう、引き留めてほしいのかな、でもそんなのかんちがいだよな、ああ、アンクレット、アンクレット……

 

思い出はいつかどこかで片づけるつもり 

彼の家までこのまま送っていくよ

 

卒業するまゆゆがソロでここを歌うのが何ともせつない。そして、いろいろ上手くいかないことがたくさんあったまゆゆが挫折っぽいことを歌うのは本当にせつない。でも、この曲で多くの人のありふれた挫折に寄り添うことができるのは、このまゆゆの繊細な声なのだ。

 

あだち充のH2のひかりと比呂が海に行くシーンをほうふつとさせる。青春の黄金テーマ、季節外れの海で会う、友人でしかない男女!!海は関係性の綾をさまよう者たちの漂流地なのだ!

 

もちろん、あたまの良い人たちからすればきっと、こんなアニメ・マンガ的チープな歌詞はよろしくない!!ということなのだと思うけど、でも、やっぱりこのど真ん中なかんじが好きなんだよ……

 

まゆゆ、卒業おめでとう!素晴らしい人生を!