今夜はいやほい

きゃりーぱみゅぱみゅの「原宿いやほい」のいやほいとは何か考察するブログ

毛沢東の愛した武昌魚を大中華酒楼で食べる(それはうまいのか否か…) 武漢のはなし③

武漢のシンボル横鶴桜。最近立て直されたものらしいけれど、なかなか威厳がある。

 

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「そろそろ夕飯ですかね。武漢に来たら、武昌魚を食べなくてはなりません。毛沢東が愛した魚です」

 

加藤がそういって店を調べ始めた。毛沢東だらけの一日である。

 

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武昌彭刘杨路という道を歩いていく。なかなかしゃれた通りだ。ダウンを着込んだ溌溂とした若者が往来していた。

 

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すぐ近くに、実際に毛沢東が訪れたらしい大中華酒楼というお店があることが分かった。ネット情報なので本当に訪問したのかについての真偽は不明である。しかし、黄鶴楼近辺では最も大きい店であった。

 

「これだけ大きい店であれば、だいたいおいしいに違いないだろう!」

 

僕は根拠不明の発言を放った。

 

「そうですね!」

 

誰かが同意したような気がした。もしかしたら気のせいかもしれない。とにかく、この店で夕飯をとることにした。

 

若いお姉さんが案内してくれる。ニコニコと何かを話してくれるのだが、中国語なので全く分からない。清潔で整った店であった。壁に漢詩が書きつけられており、なかなかよい雰囲気を感じさせる。

 

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席に着きメニューをめくる。中国語というのはわかるときは雰囲気でほとんどわかるのだが、わからないときは一ミリも何が書いてあるのかわからない。料理のメニューというのは固有名詞が多いので、文字たちはおおむね黒々とした塊として立ち現れてきた。

 

加藤がスマホで写真を撮るとスマホがぴぴぴと文字を認識して、日本語へと翻訳をする。7割くらいのメニューの意味を理解することができた。情報技術は本当にすごい。

 

「とりあえず、武昌魚は食べるでしょ…あとその野菜炒め的なものを食べたいな」

 

と僕が告げると、加藤が、じゃあ僕は鴨食べたいですといって注文をする。

 

「まあそんなところでいいじゃないですかね?」と田中がひかえめに言った。

 

「いや、黄鶴楼なる酒がありますよ。やはり酒ですよ、酒、これは飲まない手はないのではないですか?」

 

加藤があおるように言った。

 

「それはいいですね、飲みましょう」

 

後輩やまだは言った。今頃書き損ねていることに気が付いたが、実はこの旅行は四人だったのである。やまだと加藤は大学のみならず、高校の先輩後輩でもあり、酒を飲むときには無用の結託を見せることがあった。

 

店員のお姉さんが酒を持ってきた。白酒である。

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店員のお姉さんはハイハイハイこれ使ってね的なジェスチャーをして、ガムシロップの入れ物のようなものを置いていった。中国ではこんな容器で酒を飲むのだろうか。

 

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とくとくとくとくとガムシロップ的容器に酒を注いでいく。

 

「カンペイ!!」

 

中国風のあいさつで一気に飲みほす。喉がかっと暑くなる。接着剤のような香りが鼻に抜けた。実は僕はこの白酒があまり得意ではないのだ。

 

「きくちさん、白酒なんてのは慣れなんですよ、慣れ。ただ飲む、それが大事です」

 

加藤はそんなことを言ってやまだの空いたガムシロップ的容器に酒を流しいれた。いやいやとやまだが加藤のガムシロップ的容器に次ぎ返す。二人で小さなあおりあいを始めていた。僕も酒は好きなのだが、白酒はあまりがぶがぶと飲めない。ひとかたまりの口惜しさを抱えながら料理を待った。

 

最初に現れたのは、アヒージョのような料理だった。

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なんだこれは、間違いなくうまいだろと口へ運ぶ。予想通りエビのアヒージョのような味がした。こんな中華料理もあるのだなあ。

 

「普通にうまいですね」

 

「ふつうにうまい」

 

「アヒージョですね」

 

などと会話をしながら酒を飲んだ。接着剤の匂いが鼻にこもった。僕たちは安堵していた。おいしものにありつけたぞと。こんなしっかりしたものが食べられるとは!次はどんな料理が出てくるのだろうとわくわくしながら待った。

 

噂の毛沢東魚、武昌魚がやってきた。

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「おお……なんだか見た目はおいしそうですね」

 

加藤が写真を撮りながら言った。

 

「そうだね、結構いけそうじゃん」

 

といって僕は箸でちょいちょいと身を崩し、その毛沢東の寵愛を一心に受けし武昌魚を口へ放り込んだ。

 

「なるほど……」

 

噛んだ。

 

「なるほど……」

 

噛めば噛むほ泥臭い風味が漂った。

 

「まあ、食べてみなよ……」

 

僕はそう言って、みんなを促した。

 

「なるほど……」

 

皆、一様の沈黙に浸った。

 

うわ……まず…というほどまずくはないのだが、淡水魚の臭さが前面に出ており、絶妙においしくないのである。食べられなくはないが、ぎりぎりおいしく食べられないラインを的確についてきている。身の硬さも奇妙に緩い。毛沢東もなかなか変わった魚を好んで食べていたのだな…

 

「あのどろどろの長江だから、そりゃ淡水魚は当然こういう味がするんだろうな…」

 

僕はとりあえずあまり咀嚼をしないで飲みこむ方針に切り替えた。

 

「そうですね……まあ、まずくはないような気がしますけどね、私は」

 

気のやさしい男、田中は場の雰囲気を取り繕うと、出がらしの茶葉のような発言をした。皆、もくもくと食べたり食べなかったりして時間は過ぎていった。

 

鴨が来た。

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うまそうに見えますよね…?これも絶妙においしくなのであります。まず硬い。ぱさぱさしている、中途半端な味付け……

 

僕たちは皆、どちらかというと食いしん坊的な気質を持っていた。うまいものを食べれば、これは今世の一大事といった調子で盛り上がり、まずいものを食べると、早朝の5時の冬湖畔の静けさをたたえてしまうのであった。

 

やまだはちょっと吸ってきますといってどこかへ行った。

 

「最近、やまだの煙草の量が尋常じゃないですよね……」

 

加藤は心配しているのか心配しているのか全く分からない顔でそんなことを言った。

 

最後に野菜炒めがやってきた。

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地獄に仏、この野菜炒めは比較的おいしかった。僕たちは無心で野菜炒めを食べ、ガムシロップ的容器にただよう白酒を流し込んだ。接着剤の匂いが漂った。なんだかんだ朝5時に起きて飛行機でここまでやってきたんだもんな。まあ疲れるよなと思った。椅子に深く腰掛けると、窓から冷気が落ちてきているのを感じた。武漢の夜はずんずんと深まってきているようだった。