僕は池袋が好きだ。毎週末予定がなければ必ず池袋にいる
日曜日、目がさめるととりあえず二度寝をする。微睡みから抜けてきたら、スマホでツイッターなどを一通り見る。そのあと、特に何をするでもない虚脱の時間を1時間ほど挟み、体の細胞たちの50%が起きたなという時点でようやく起床する。体は自然と池袋へ。ほとんど習慣化されているといっても過言ではない。池袋に着いたらまずジュンク堂へ向かう。
池袋駅からジュンク堂へいくには、西武百貨店を抜けていく必要があるのだけれど、小腹が減っていれば味咲きでたい焼きを買う。ここのたい焼きは本当においしい。
小倉クリームチーズをよく買う。モチモチで品のある甘さだ。毎日おやつに食べたいくらい好きである。
たい焼き屋なのにいつも店の前に2〜3人が並んでいる。列をなす人々に、心の中で、味咲きの素晴らしきたい焼きを手に入れる喜びを分かち合う同志たちよ!という賛辞を送る。たい焼きは結構大きめで満足感もある。人間は空腹状態だと冷静な判断ができなくなるので、あれよあれよという間に本を買ってしまうなどの愚かな行為を抑制するためにもまず腹を満たす必要があるのである。
小腹を満たしたらジュンク堂へ。ジュンク堂は本当に良い本屋である。まず一階のトップセラーと雑誌のコーナーへ行く。上階にあがり、早川ポケットミステリーの装丁のかっこよさに震え、流行りの海外文学などをタイトルだけ読んで満足し、TRANSITを手にとってはまで見ぬ地への思いを募らせ、最後に地下に降りて漫画を見てからレジへ向かう。読みたい本の10%も読めずに人生は終わっていくのであろうなと思う。
ジュンク堂は椅子が置いてあるのも素晴らしい。落ち着いた気分で本を吟味することができるのだ。
ご飯どきであればジュンク堂の真横にあるキッチンABCに入る。キッチンABCはジャンクフードの王国である。店内に入ると油の匂いが鼻孔を抜けてくる。やたらと明るい店長が、慇懃とはこのことであるといった低姿勢でメニューを持ってきてくれる。やたらと低姿勢なので、こちらも無駄に低姿勢になってしまう。今日もまたここへやってきてしまったと……思いながら、注文をすると、厨房の元気なシェフたちがカッチャンカッチャン、カッカッ、ジャーと猛々しい動作で料理をしてく。
その様は池袋の厨房界隈でもっとも威勢がよいのではないかと思うような調子で、肉をバチーンと鍋にいれて強火でがちゃがちゃ炒めたと思いきや、タレをぱっしゃーんといったかんじで入れてグワングワンかきまぜる。そんな音をBGMにジュンク堂で買った文庫本などを開き、料理がやってくるのを待つのである。それはひとつの小市民的至福の時間である。
料理名不明のガツンとした料理がたくさんある。インディアンライスだったかな?
とにかく味が濃いのでご飯があっという間に消えていく。ジャンクフードはこうでなくてはならないなと思う。黒光りするカレー、黄金の黄身、てらてらのニラ……食後に胃がズーンと重くなる。
ところで、僕は埼玉出身なのだけど、埼玉文化圏の人間にとって池袋は極めて重要な街である。行政上の中心がさいたま市であることは間違いない、しかし、それは行政上の問題である。埼玉県民にとって、象徴的にも実利的にも、池袋は圧倒的重要性を持っているのである。
埼玉で育った僕は以下のような感じで池袋に至ることとなった。まず、中学生のころ、すこし背伸びをして春日部、越谷に行くようになった。埼玉県東部の田舎者というのは、いきなり大宮デビューしないのである。越谷、春日部あたりで肩慣らしをするのだ。池袋などはるか彼方先である。
中学一年生の夏、クラスの友人と3人で春日部のロビンソン百貨店に映画を見に行った時のドキドキを僕は今でも鮮明に覚えている。ロビンソンは中学生の僕にとってはあまりにも華やかでハイカラな空間だった。
エスカレーターに乗り、色とりどり輝く陳列を横目にワクワクしながら映画館へと向かった。なんと都会的行為ではないかと心踊らせていた訳である。映画を観終わって、友人たちと映画について分かった気になりながら何かを話しつつエスカレーターで下に降りていると、向かい側からクラスの女の子たちがエスカレーターを上がってきたのだ。
「あ!」とかなんとか言って僕たちはエスカレータ越しにすれ違った。翌日、昨日ロビンソンにいたよね、なんて会話をした。それは埼玉県の田舎中学生には大変おしゃれな会話であるように思われた。僕にとっても、同じようにクラスの人たちにとっても、春日部は華やかで豊かな街だったのだ。
しばらくして高校生になると、大宮へいくようになった。大宮は春日部とは比べ物にならないくらいに栄えていた。当時の高校生の僕は、絶句するようなレベルで人がいるなと思った。そして店が本当にたくさんあった。どこまで行っても何かしらの店が何かを売っていた。
大宮には比較的大きなブックオフがあった。なけなしのこづかいを蕩尽し、漫画やCDを買った。ブックオフの品揃えというのは基本的に街の豊かさに強い相関があるように思われる。大宮にいくと、地元では見つからないようなCDが見つかったりした。
エレファントカシマシのデビューアルバムを買ったのも大宮のブックオフだった。高校生の頃の僕は、その都会的でソリッドな音とがなるような歌声に打ちのめされた。宮本浩次の出身が赤羽という場所であることを知った。
エピック時代最後のアルバム「東京の空」を聞いた。トランペットが悲痛に響いていた。
解らない叶わない聞こえない届かない望まない
望めない頼りない解らない叶わない心はここにもそこにも無い ああ……
ああ街の空晴れてああ人の心晴れず
埼玉の先が見えてきた年頃だった。
東京の大学に進学した。しかし純粋培養の埼玉の田舎者には、東京はあまりにも巨大かつ複雑であった。ハチ公前集合ねなんて言われても、そもそも渋谷駅から出ることができないのである……
多くの埼玉県民がおそらくそうであるようにして、僕は池袋に居場所を求めるようになった。埼玉県というのは電車で東京に出る時、基本的に池袋を経由しがちな構造になっているのである。池袋は間違いなく大きな都市であった。しかし、池袋は埼玉にいるような感覚があった。それはそうだろう。池袋は埼玉県民だらけなのだから……
大学を出て、都内で働くことになった。どこに住もうか考えた。意識的なのか無意識的なのかもはやよく分からないのだけど、僕は池袋のすぐ近くに住み始めた。僕にとってはそれはとても心地の良いことであった。渋谷の近くや新宿の近くは今でもすこし恐ろしい気がする。染み付いた埼玉県民性はなかなか抜けないのである……
池袋について話すには埼玉について話すのは必然的帰結なので仕方ないのだが、すこし話がずれてしまったので元に戻すと、池袋にはジュンク堂のみならずいい古本屋もある。往来座はああ、それ置いているの!というような本をたくさん置いているすばらしい古本屋である。ジュンク堂からすぐ近くなので、はしごすることが可能である
そして池袋といえば巨大なブックオフもある。大宮を超えるような巨大なブックオフである。西武百貨店でも時々古本市が開催される。池袋は本好きにやさしい街なのである。
ゆっくり買った本でも読みたいなという時には喫茶店に行く。池袋は実はよい喫茶店がたくさんあるのである。気に入っているのはこのへんだ。
ドリームコーヒー
立教大学のすぐ近く、たまごトーストがめちゃくちゃ美味しい。アイスコーヒーはなんと220円である。日当たりが良く賑やかな雰囲気で、地元の人たちが世間話をしたり新聞を読んだりしている。朝早い時間に起きれて、ドリームコーヒーでたまごトーストを食べられた日は文句のつけようがない休日である。
本格珈琲 昭和
おやつセットというのがあり150円でチョコとクッキーがついてくる。地下にある静かな店で落ち着いて本を読むことができる。喧騒から遠く離れて静かな気持ちでいたいときにはとても良い。人間には静かにクッキーをかじる時間が必要である。
蔵
珈琲好きの人たちからとても評判がよい水出しコーヒーが有名な店。コーヒーフロートがおいしい。全国から珈琲スキがやってくるのか耳を澄ましていると、時々、~から来たんですよというような話が聞こえてきたりする。
カフェコムサ
池袋のカフェコムサのパフェは信じられないくらい美味しい。季節ごとのパフェが最高なのである。
去年の夏に食べた桃とクリームチーズのパフェ?だったような気がする。このパフェを食べた時僕はなぜかおもわず顔をしかめた。あまりに美味しすぎて訳も分からずとりあえずパフェを睨んだのである。なんなんだこれはと……
これは昼下がりの午後に暇を持て余した神がシャングリラで桃をとってきて作ったのではないか!とでもいうようなすばらしい味だった。ももの甘さと香り、滑らかさ、チーズの少しの塩気と酸味……一口食べては、これはうまい、一口食べては、むむ、これはもしかしてうまいのでは……一口食べては、やはりうまい……と一本食べ終わるまでに30回くらいうまいと言ってしまった。こんな経験は初めて出会った。
抹茶と白玉のパフェ
黒蜜をかけて食べる。最高である。カフェコムサがどれくらい好きかというと、会社を午後休とって行くくらいに好きである。休日に行くと非常に混んでいるので、平日に行くと並ばずに入れてよいのだ。会社などというものは一本のパフェのために休まれなくてはならないものである。
改めて、池袋のよさというのはなんだろうかと考えてみると、街中に色々な属性のものが溢れていることのように思われる。北側は歓楽街とチャイナタウン、東側にはサンシャインと乙女ロード、南東には南池袋公園、小ぎれいな飲食店、雑司が谷近辺の古い街並み、南西には高級っぽい住宅街、西側には国立劇場と立教大学。駅前ではいついってもストリートミュージシャンが何かを歌っている。今東京でもっともストリートミュージシャンが多いのが池袋なのではないかと思う。
そんな雑多な池袋は民族系の名店もたくさんある。
ベトナム料理 フォーティン・トーキョー
滋味深い味がして大変おいしい。ライムを絞って、特製のチリソースをたっぷりかけて食べる。ライムとパクチーの香りが口の中に広がり、牛肉の旨味が広がる。追って麺の甘やかさがやってくる。優しい味付けの中にいろいろな楽しみがある。いつも一瞬で食べてしまう。
タイ料理 メコン
僕は、ここのガパオライスが今まで食べてきたガパオライスの中で一番好きである。味付けが強烈なのである。バチーンとくるナンプラー!最近、日曜の昼ごはんはほとんどこれである。これがなくては早々と迫りくる苦悶の月曜日に立ち向かっていけないのである。
メコンはグリーンカレーも有名である。しかし、このグリーンカレーは僕はグリーンカレーではないのではないかと思っている。どろっどろでクリームのようになっているので、ほとんどシチューなのである。僕はこれはグリーンシチューだと思っている。
民族系といえば、池袋の北西の方はプチチャイナタウンのようになっているのだけれど、中国食品友誼商店という中華系の食料品店も楽しい。
やすい中国茶の茶葉がたくさん売っていたり
見たこともない調味料がたくさん置いてある。
ジャスミン茶を買って帰ってきて、家で飲んだりしている。
涼皮を買って帰って、
キムチを山盛りかけて食べたりするのも大変においしい。
中国の若者に流行っている(らしい)お酒なども売っている。小洒落た詩が突拍子もなく添えられていたりしておもしろい。
桜舞う
麗らかな日和
君の花笑み
何はともあれ、池袋は楽しく、おいしく、いろんなものを飲み込んでいる偉大な街だと思うのです。池袋…ウェストゲートパークじゃんなどと言わずに!みんなで、南池袋公園で、謎の詩が添えられたこじゃれ白酒で飲もうではありませんか!
きくち (@zebra_stripe_) | Twitter
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