今夜はいやほい

きゃりーぱみゅぱみゅの「原宿いやほい」のいやほいとは何か考察するブログ

通勤列車における鼻息スピー事件

朝、電車に乗った。通勤というやつである。通勤における主要な問題は座席をめぐる戦いである。空席は、自らの意思、体調、気分とは全く関係なく展開される。朝の占いのようなもので、運の良い時は、パッと座れたり、もう全くついていない時には、そこかしこで、席が空くのに、自らの前だけ全く席が空かないことがある。

 

今日まさに、目の前のその席がすぐ空いたのだ。ラグビーか何かをやっていそうな屈強なポロシャツの男があまり人が降りなそうな駅で、すくっと立って去っていったのである。僕は、ゆっくりと席につき、静かに勝利を噛み締めた。そこから、会社までは、乗り換えはないので、目を閉じ、睡眠導入態勢へと移行した。

 

バッグを抱え、すこしそこに体を預けるようなイメージである。5分ほどで眠たくなって来て、もう落ちるまでほんの少しというところだった。

 

そこで聞こえて来たのがスピーである。隣のスーツを着た同い年くらいの男が、やけに甲高い鼻息を放ち始めたのである。

 

スピー

スピー

スピー

スピー

スピー

スピー

 

ピーが異様に高い音で、失敗した口笛のような、ビルのドア付近で流れているモスキート音のような、いたく不快な音なのだ。鼻の中が巧妙に詰まっているらしい。こんなに高い鼻息があることを、その時、僕は初めて知った。途端に眠気冷めていくのを感じた。この騒々しい走行音で充溢した車内に際立って響くくらいなので相当のスピーであった。

 

一定のスピーであればまだ良いのだが、スピーは、時々スッピーになったり、スッッッッピーになったり、スピッになったりするのだ。この不規則性が、より不快感を産むのである。

 

僕は、限界を感じ、イヤホンを耳に刺し、スマホの限界まで音量を上げ米津玄師を聞いてみることにした。驚嘆すべきことに、スピーは米津玄師を軽く飛び超えて、僕の鼓膜をすっと引っ掻いてきた。米津玄師でだめなら、テクノでも流してみるか?とドンドンずちゃずちゃする音楽を流してみるも、やはりスピーは、雲の隙間のエンジェルラダーのような鮮烈な印象で、耳へと到達してくるのだった。

 

通勤には、耳栓が必要なのかもしれない。通勤時のコンディションほど一日の出だしに重要なものもない。何だったら、飛行機に乗り込むときにたまにもらえたりする睡眠三点セットであるところの耳栓、アイマスク、首枕でも持ち込もうか。これがあれば、きっと、完全なる睡眠が可能になるだろう。

 

スピー

スピー

スピー

 

男の鼻には一体何が詰まっているというのか。これがいびきであれば、男が起きればその音が止まるわけだが、男は起きた上でその音を放っているのである。すみません、あまりにもうるさいので、口呼吸に切り替えてくださいと告げるわけにもいかない。

 

スピー

スピッ

 

男の鼻から音源体が放出された。スピーは消えてなくなった。社内にはガタンゴトンとただ走行音だけが残った。しかし、僕はもう、眠ることができなかった。何があっても今日は敗北の一日だと思った。