今夜はいやほい

きゃりーぱみゅぱみゅの「原宿いやほい」のいやほいとは何か考察するブログ

一泊二日、千葉を食べる。アジフライを食べに出かけ、奇跡のアジフライに出会う。

 

突然、アジフライが食べたいなと思った。しかも、そのへんのアジフライということではなく、とびきりおいしいやつがいいなあと思った。そういうことが時々ある。揚げ物の引力だ。

 

それは、木曜日のことで、来る週末には何も予定がなかった。しかも月曜は有休である。しめしめと、僕はグーグルマップを開き、いいアジフライを食べられそうな場所を検討することにした。やはり海沿いがいいよな。茨城と神奈川はこの間行ったしなあ。ぱっと行けて海があるところということで、自然と目的地は千葉となった。外房はやや遠いということで、内房へとりあえず向かってみることにした。

 

うきうきしながら、三回の夜が過ぎ、日曜、僕は、埼玉を出て、新宿に向かった。バスタ新宿から木更津行きのバスが出ているらしいのだ。

 

 

バスタ新宿を使うのはたぶん初めてだ。バスは予約しないでも席の1/3ほどしか埋まっておらずとても快適だった。完璧な出だしだ。アジフライまですぐだ。僕はウキウキしながらスマホで木更津で食べられそうなアジフライについて検索し始めた。寝落ちしていて、気がついたら木更津だった。僕は乗り物において寝落ちしやすい性質がある。

 

 

アジもりだくさんの、魚問屋食堂さかなやくろへ

 

先ほどバスの中で目星をつけていた店をグーグルマップでもう一度確認すると、なんと、どの店も日曜日が休みなのだ。スマホから顔を上げて、一息ついて、え、休みじゃんとつぶやいて、もう一度グーグルマップを見た。無慈悲にも、現実は何もかわらず、赤字で営業時間外と書いてあった。

 

ただの調査不足だ。自分が悪い。数日かけてアジフライへの意気を高めていたので、急速にがっくりしながら、アジフライ+営業時間中で今一度検索をかけてみる。

 

すると、徒歩7~8分のところで、アジ料理をたくさん出しているほとんどアジ専門店と言って過言ではない店があることが分かった。むしろなぜ、さっき気が付かなかったのかという感じではあるのだが、僕は、先ほどの失態を一瞬で忘れ、がぜん元気を取り戻し、そのアジ専門店に向かうことにした。

 

千葉にうとい人間からすると、木更津という海ほたるで、イメージは海!なのだけれど、海から少し離れている駅の周りはふつうの住宅街である。

 

 

アジフライ、アジフライと唱えながら、歩いていくと、人だかりが見えてきた。もう1時半にもなろうとしているのに10人ほどが並んでいるようだった。

 

 

木更津ではアジがなかなか人気らしい。意外と店にはすぐ入れた。アジだらけの定食を注文し、じっと待つ。待ち時間がよきスパイスであるのならば、今回の数日におよぶ待ち時間の長さはなかなかのものである。僕以外はみな家族づれで、小さな子供たちがきゃっきゃしていた。

 

アジフライがやってきた。刺身、たたき、骨せんべいまでついてきて、さながらアジの満漢全席である。

 

ソースを厳かな手つきでつーっとたらし、念願の、アジフライを食べた。やや小ぶりだがアジのおいしさがよく伝わってくる。衣も、よいカリカリ具合だ。たまご強めのタルタルを乗せる。タルタルは何につけてもうまい。

 

アジフライ、これを食べに来たのだ。三日間念じて待っていたわけなので、美味しくないわけがなかった。

 

 

刺身はゴマダレをつけて食べてみてくださいとのことで、試してみると、これがおいしい。新鮮で、生魚の嫌な感じが全然ない。ゴマをとろりとまとったアジは米によく合う。またアジフライに戻る。同じ魚なのに、全然別の方向でおいしい。アジはすごい魚だ!

 

最後に、なめろうを出汁茶漬けにして食べる。出汁がアジと米のうまみを連れて喉の奥に落ちていく。僕は、やはり海がある県は素晴らしいと、ひとりうなずき、埼玉の完全な敗北を認めたのだった。

 

 

アジフライを食べたい!と家を出てきたわけだが、アジのコースと言ってもよいものを食べ、はやくも目的は達成された。よい休日だなあと思った。せっかく内房エリアにいるわけだから、あわよくばもう一回くらい食べたい。この後は、館山で一泊して、折り返して帰宅という予定だ。珍しく、宿は前日に予約していたので、あとは行くだけだ。

 

駅に向かって歩く。

 

喫茶フレンドで電車を待ちながら

 

館山へ向かう電車はあまり本数が無く、20分強時間があるようだったので、道すがら喫茶店に入った。

 

喫茶 フレンド

 

静かでいい喫茶店だった。

 

 

館山は小さなリゾートだった

木更津駅から、JR内房線に乗り、館山へと向かう。

 

 

うたた寝などしていたらあっという間に館山に着いた。館山については、本当に全く知識がなく、木更津のような感じの街なのかなと思っていたのだけど、駅を出たら驚いた。立ち並ぶ建物や街路樹がちょっとリゾートっぽい感じなのだ。千葉の先端はこんなことになっていたのか!

 

 

千葉に行くというと、まあ近いので、正直あまり旅行という感じはしないのだけど、館山の街は、お前は、旅行に来たんだぞ!と呼びかけてきているようだった。大きな目抜き通りがあって海が見えた。背筋が伸びるような光景だ。これを見て、浜辺まで行かない手はない。ここが神奈川の海沿いであれば、恋人たちがふらふらと仲むつましげに歩いていそうだが、館山は硬派だ。こんなに浮ついた雰囲気なのに、浮ついた人々はいないようだった。

 

 

ひらけたいい浜だ。歩いている人が数人いるだけでとても静かだ。雲の切れ間に落ちかけの太陽の気配がある。貨物船が、どこへ向かっているのか、遠くでゆったりと動いている。海にうかぶ貨物船というのは何とも言えない麗しさがある。

 

人間は、やはり一年に一度くらいは海を見るべきだ。

 

海の街であるならば、寿司をたべよう

駅に戻って、今日泊まる旅館に向かう。徒歩五分ほどの距離の幸田旅館という宿だ。

 

 

館山というのは、昔、城もあったらしく、うまく言語化することができないのだけど、なんとなく古くから栄えていたんだろうなという街の雰囲気がある。旅館はけっこうにぎわっていて、チェックインしようと思ったら、入り口で3組ほどの客が列をなし順番を待っていた。何かイベントでもあるのだろうか。

 

部屋でスマホを充電して、夕飯までの時間をつぶすことにした。

 

何食べようかな、やっぱりアジフライか?と思い、検索してみるも、アジフライが食べられそうな店はあるのだが、やはり定休日でやっていないようだ。千葉の飲食店は、日曜休みがちなのだろうか。海の近くだし、寿司を食べるかと、旅館を出た。

 

少し、雨が降り始めていた。車のライトが雨で増幅され、いつもより勇ましく見える。

 

「お~、いらっしゃい。はい、そこ座って~」店内に足を踏み入れただけで、店主がどうやらめちゃくちゃ明るい人であることが分かった。細かいうごきに愉快なオーラが染み出ていた。

 

「お~、じゃあ、とりあえずざっとつくるわ」と言って、ささっと何貫か握ってくれた。

 

 

「お~何か食べたいものある」店主はお~が口癖のようだ。

 

「そうですね......」と迷っていると、炙り大トロ食べてよと言って握ってくれた。写真は撮り忘れた。あと何貫か食べて、最後にアナゴを頼んだ。ゆずが乗っていて、トロっとしておいしかった。

 

 

地元の人が中心の店をあまりお邪魔するものでもないだろうと思い、少し混んできたので、そそくさと店を出た。館山には雨が降り続いていて、少し肌寒かった。傘がなかったので、走って宿に帰った。

 

幸田旅館は静かだった。ところどころに洋画が飾ってある。

 

 

古い旅館というのは、構造が入り組んでいたりして面白い。

 

 

打ち捨てられるように廊下に飾られていて何とも言えないムードがある。絵の前に立ち止まる。ダンスは楽しいですかと聞きたくなる。

 

 

浴槽が、海の街を感じさせる形をしていてよかった。

 

 

朝、潮騒の音で目が覚めた。というのは嘘で、トラックか何かが道を駆け抜けていく音で目が覚めた。ちょっと数段下ったかとおもったら、またちょっと上がったりして、不思議な構造だ。

 

 

落ち着くいい旅館だった。

 

 

館山式モーニング、チキンバスケットセット

近くの、パン屋で朝ごはんを食べることにした。なんと1919年創業らしい。

 

 

緑の椅子に座る。

 

 

チキンバスケットというメニューが人気らしい。もう、音だけでおいしそうである。速やかに注文した。チキンはカリッと揚がっていていい塩気だ。お腹が鳴りそうだった。パンにバターを塗る。パンをかじる。チキンを食べる。鶏肉の油とバターがまじりあってパンに絡む。なかなかの量だ。やはり海の街というのは朝からがっつりいくのだろうなあと思いながらコーヒーをすすった。

 

 

旅立ちのびわゼリー

今日は新たなるアジフライを食べるべく千葉内房を北上していく予定である。電車まで少し時間があったので、お土産物屋に入る。不勉強で知らなかったのだけど、内房のあたりは、びわが有名らしい。一口ゼリー的なものがあったの買ってみた。チキン、パンからのゼリーで朝食は完璧だ。

 

 

館山駅の前には、菜の花がわんさか咲いていて、少し離れたところまでにおいが広がっていた。館山というのは全体的に華やかだ。

 

 

アジフライ待ってろよ~と電車に乗り込む。車内で、スマホで調べていると、鋸南町に千葉のブランドあじであるらしい”黄金あじ”のフライを出す店があるのを発見した。黄金あじ、こんな輝かしい名前なのだからそれなりのものに違いない。これだ!これを求めていたんだと僕はぐんと元気になっていった。

 

内房の街をひたすら歩く

とはいえ、まだ、昼ご飯の時間帯まですこし余裕があるので、街を歩いてみることにした。駅前の雰囲気で直感的にびびびと来たところで適当に降りてみる。

 

 

岩井という町で、民宿業が盛んであるらしい。アピールポイントが民宿というのもなかなか珍しい街である。

 

 

のどかで平穏な道が続いている。猫が小走りで道を横切っていく。

 

 

甘い匂いがするなあと思ったら、少し歩くと菜の花が一面に咲いているのが見えた。奥には小高い山が見える。千葉は地形がデコボコしているのだなあ。

 

 

たしかに歩いていると民宿が多い。魚やさんのお宿である。なんかうまいものが食べられそうでよいではないか。こんなところで、昼間は畳の上でごろごろして、散歩して菜の花を見て、海まで歩く。体を動かして小腹がすいてきたら、宿で海鮮を食べるなんていうのはとても素晴らしいことのように思えるではないか。

 

 

海が見えてきた。風で笹がかさかさと鳴っている。

 

 

ちらほら散歩している人がいる。遠くに、富士山が見える。僕は思わずデカ!とつぶやいた。千葉であるにも関わらず、富士山はかなり大きく見えた。そうか、邪魔する建物がないのと、ここが海抜0地点であることによって、富士山の本来の高さがそのまま見えているということなのだ。そう考えると、昔は高い建物なんて全然なかったわけで、東京からでも、富士山はかなり大きく見えたのだろうなあと思う。

 

 

そのまま海岸沿いを歩く。おばあちゃんが鼻歌をうたいながら散歩している。また少し歩くと、別のおばあちゃんが野良猫と話をしている。海辺では人々はおおらかである。15分ほど歩くと、ちょっとしたトンネルがあって、そこを抜けると、小さな港があった。岩井袋漁港というらしい。

 

 

シラサギのような鳥が海を見ていた。どことなく、頭がよさそうに見えてくる。

 

 

港から、隣の勝山まで、また少し歩く。小さなトンネルを抜ける。真っ暗闇の先に、春の気配を感じる。

 

 

海水浴場の喫茶店

勝山という地域は、漁業が盛んなのだろうか。けっこう人の出がある。商店街のアーケードの入り口にはキュートなマンボウが描かれている。僕は、これはきっといい街に違いないと思った。

 

 

営業時間内に、アジフライの店に行くためここからは電車で移動しようと思ったのだけど、しばらく電車が来ないようだったので、近くにあった、ながい喫茶というお店に入った。

 

 

「アイスコーヒーでお願いします」

 

「はい、少々お待ちください。なにでいらっしゃったのですか」店主の老人はおしゃべりが好きそうな様子だった。

 

「旅行で館山のほうに行っていて、散歩がてらこのあたりを歩いていたんです」

 

 

「そうですか、めずらしいですね。このへんも、昔は海水浴で大変にぎわっていて、スナックとか、居酒屋とかいろいろお店があったんですけどね。近頃はもう全然だめですね」

 

「へえ、海水浴が盛んだったんですね。この辺では結構古いんですか」

 

「家族で海水浴来ている人がたくさんいたんですよ。店は、もう何十年もやっていますからね。昔は喫茶店というのはもうかったんですけど、もう全然ですね」といって店主は笑った。なんとなく笑い方がなくなった祖父に似ていた。

 

アイスコーヒーをぎゅぎゅっと飲んだ。「携帯がなかったころは、喫茶店で待ち合わせしたとかって聞きますもんね」

 

 

「そうなんです、昔はね。そんなんでしたよ。最近、すぐそこにコンビニできたでしょ。もう困っちゃいますよ」と店主は笑っていた。

 

そのあとも会話がけっこう盛り上がっていたのだけど、電車の時間が迫っていたので「すみません、お会計で」と声をかけ、店を出た。車がビュンビュン走っていた。店主の話に引きつけられ、どこからか、浮き輪を持った少年が走ってきそうな気がした。

 

黄金アジフライという、天衣無縫の食べ物

電車とはなんと偉大な発明なのだろうか、あっという間に目的の保田駅に到着した。駅の目の前の観光案内所を見ると自転車レンタルをしているようだったので、借りてみることにした。

 

水色の屋根がすずしげでよい感じだ。

 

自転車を数分漕いでいると、アジフライの店、鋸南食堂についた。きょなんと読むらしい。広い敷地にぽつんと店が立っている。僕はその広大な土地に自転車を停め、店へと向かった。

 

 

店は満席のようだった。人気なんだな~と店の前で立っていると、店主が出てきた。

 

「おひとりですか」

 

「はい、一人です」

 

「いまちょうど、アジが最後の一匹だけ余っていたところだったんですよ。一名様でよかったです。ちょっと待っていてくださいね」と言って店主は店の中に戻っていった。

 

僕は「あっぶね~」と息を吐いた。どうやら完全に運がいいようだ。僕のすぐあとに客が来て実際に断られていた。この店で、千葉のブランドアジ・黄金アジのフライが食べるのだ。アジフライ旅の終わりにふさわしいではなか。

 

5分ほど待っていると中に呼ばれた。黄金アジフライはすぐにやってきた。低温で挙げられているのだろうか。衣が白めだ。すごいうまそうだ...


とりあえず何もつけずに食べてみる。ふわっふわで、じゅわっと油が広がり、ほぐれるような身の柔らかさである。アジの香りのいいところだけが残ったような印象がある。めちゃくちゃ美味しいではないか...... なんてことだ、千葉県民はこんなアジをこっそり食べていたのか、それは大変なことだ。衣のやさしい食感が柔らかい身によく合っている。

お店特製のトマトソースにつけて食べる。ちょっと洋食っぽいニュアンスになり、これまた愛おしいおいしさである。米との相性も抜群である。2枚か...5枚くらい食べたいなと思った。

 

 

なめろうをすくう。米を食べる。味噌汁を飲む。アジフライを食べる、そして、米を食べる。完璧な定食である。僕は漬物をかじりながら、埼玉と千葉は交通の接続がよろしくないので、あまり行く機会に恵まれなかったのだけど、千葉のポテンシャルを全く理解できていなかったのだなと深く反省したのだった。

 

 

レンタサイクルを駅で返した。使用時間が短かったら割引してくれた。千葉の人々は寛容である。

 

電車に乗り込んだ。アジフライの華やかで幸福な余韻が残っていた。海というのは偉大だ。そんなことをアジに思い知らされながら、内房をまわり、無限の平野が広がっている埼玉へ帰った。