11月のあたまに、ちょっとした用事があって岐阜に行った。岐阜の大垣という街である。結論からいうと、カツ丼、およびとんかつが美味かったということについての報告である。
大垣 朝日屋
歴史を感じる店構えだ。こういう店は、可もなく不可もない、全くもって古典的な食事をやや高めの価格帯で出してくるパターンが多い気がする。偏見かもしれないが、必ずしも外れてもいないのではないかと思う。うまいのだろうか、しかし、休日にこの辺りに空いてる飲食店がそもそもあんまりないのだよなと思い、ふらっと入ってみることにした。
店の中も、なかなか味のある大衆食堂といった感じである。ちょうどお客さんが出て行ったタイミングだったので、待たずに座ることができた。お茶を飲み、喉を潤し、メニューを凝視した。
家族での来訪が多いのか、小さい子供があれだこれだと楽しそうにはしゃいでいた。何を頼むべきか、他の客が頼んでいるものをツブサに観察すると、どうも中華そばと、謎の黄色い丼ものが主にオーダーされているということが判明した。オーダーしている客の言葉に耳をそばだてると、その黄色い丼はどうもカツ丼であるようだった。あまりラーメンという気分でもなかったので、そのやたらと黄色いカツ丼を頼んでみることにした。
カツ丼はすぐやってきた。
黄金色のたまごがふつふつと泡立っていた。盛り具合もなかなかのものである。どうやって泡立てているのか、かなり空気を含んでいるように見え、ふわふわの状態だ。しばし凝視すると、卵の泡がゆっくりととんかつの上を流れ、なんとも許しがたく空腹が刺激された。
こんなカツ丼はみたことがない…… はやる気持ちをそのままに、とんかつで黄金色の泡をすくい、白米とあわせて口の中に放り込んだ。卵は、少し甘めに味付けがされており、当初の予想通り素晴らしい口当たりだった。優れた卵かけご飯にとんかつが合わせられているようなイメージである。
箸休めのたくあんを食べ、卵と米を混ぜ合わせ、とんかつとともにかき込む。これが美味しいのだ。こんな古風な食堂で、ハイカラなカツ丼が出てくるとは……と驚いてしまった。
卵とじで、全体的にぐじょっとしているカツ丼も味が染みていて美味しいけれど、ふわふわの卵に、カリッとしているとんかつ、そして独立性を維持した白米の組み合わせも、これはこれで食感に立体感がありなかなか良いのだ。たしかに、カツ丼はとんかつの丼なのであって必ずしも、卵とじされていなくてはならない物でもないものなあと納得をした。大垣に来たらまた、きっと食べねばならない。
僕は、大垣で合流する予定だった友人に、朝日屋のカツ丼が痛く美味しかった。うまい、大そううまかったのだと囃し立てていると、友人は来るべき当然の帰結として、とんかつを食べなくてはならない!!モードに突入してしまった。するとお誂え向きにも、目の前に新たなとんかつ屋があったのである。そう、大垣はなぜかとんかつ屋がたくさんあるのである。カツ丼を食べたわずか、1時間後に、まあ、ビールにとんかつなんておやつみたいなもんでしょうと、新たに、とんかつを食べるという暴挙に出ることになってしまった。
宝亭
とんかつの”上”というやつにした。ちょっといいやつだ。とんかつの上には肉味噌がかけられており、とんかつをテカテカと輝かせていた。名古屋でよくみるどろっとしたタイプの味噌とは少し違うようだ。箸でとんかつを持ち上げると、かなり柔らかく、油がよい感じに肉に含まれていることが伺えた。食べてみるや、とんかつは甘やかな油を湛え、上に乗っている肉味噌に絶妙に絡み合う。肉味噌自体にも、肉の旨味が滲んでいて、ポテトサラダと合わせて食べるのも、なんともジャンクな感じでよかった。
店の人に、大垣ってとんかつが美味しいんですね、と言うと、そうですかね、あまりよそんな意識はないですが……といったような反応だった。そう、大垣には傑出した、カツ丼、とんかつ屋が多いのだが、当の本人たちは、そのおいしさにあまり自覚的ではないようなのだ。どうも養老に屠殺場があり、そこから新鮮な肉が降りてくるので、おいしいとんかつが食べれるということなのかもしれないと、店の人は言っていた。
カツ丼を食べたからといって、とんかつを食べてはいけないなどということはなかったのだ。うまいうまいと一瞬で肉味噌に浸るとんかつを食べた。
「おいおい、大変だよ、カキフライもあるじゃん」といったら、友人は、勢い余ってカキフライも注文してしまった。流石に一切れしか食べられず、友人が三つ食べた。大変な事だ。大垣よ!また食べにこよう!
きくち (@zebra_stripe_) | Twitter