- 卵液に肉を浸す焼肉、そして盛岡冷麺
- 旅先の喫茶店でだらだら読む、弘兼漫画
- 酒を注ぐ老婆のうつくしき指先、平興商店
- 誰もいない、もりおか歴史文化館へ
- 川辺でコーヒーを飲む
- 白龍じゃじゃ麺、スープを注ぎちーたんたん
- 盛岡のバイキングがあざみを踏みつける
- 福田パンのいわて牛焼肉サンドうまい
- あふれんばかりの牛乳瓶入りウニを食べてしまう
初めて、盛岡に来た。盛岡というと、僕にとってはユーミンのアルバム「悲しいほどお天気」に収録されている”緑の街に舞い降りて”である。
輝く五月の草原を さざなみ遥かに渡っていく
飛行機のかげと雲のかげ 山すそかけ降りおりる
着陸間近のイアホンが お天気知らせるささやき
Moriokaというその響きがロシア語みたいだった
確かに、ロシア語といえば〜シュカとか〜チカという印象があるので、モリオカにおいてもこれはロシア語的であると言えなくもないのだが、なかなかかのこじつけだ。ユーミンの感性は独特である。
とにもかくにも、今回は、盛岡冷麺食べたいな〜という心の声に唯唯諾諾と従い、盛岡に降り立った。いの一番に、冷麺を食べに行った。
卵液に肉を浸す焼肉、そして盛岡冷麺
これは別で、書いたので、詳しくはこちらを...
雨の盛岡に突撃し、一人焼肉からの冷麺、夏は終了 - 今夜はいやほい
昼間から、ビール、焼肉、キムチ。大変良いではないか...
この店は、卵をといて、焼肉と絡ませて食べる、すき焼き的な方式らしい。焼肉というのはたまにやると堪らないうまさがある。
焼肉からの冷麺、
とりあえず、最大目的である、盛岡冷麺を食べるというミッションを早くもこなしてしまったため、やや手持ち無沙汰になってしまった。天気も悪いので、すこし歩いたところにある、盛岡城公園の近くにある喫茶店に行ってみた。
旅先の喫茶店でだらだら読む、弘兼漫画
コーヒーを楽しむ顔がなかなかよい。
平日だったのでがらんとしていた。2階にあがる。色の濃い調度品が店の印象をシックなものにしていた。雨が降っていたので、店の中に入るとほっとする。看板はコーヒーなのだが、TeaHouseということで紅茶がメインのようだったのでダージリンを注文した。
本棚には年季を感じる漫画が色々ささっていた。放り捨てられたようにすみっこに存在している色あせた漫画をみるとつい読みたくなってしまう。それが普段手に取らないようなものであると、より好ましい。人間交差点を手に取る。喫茶店における弘兼漫画は独特の引力がある。たぶん、鬼滅の刃ではだめなのだ。
暑いので、ダージリンのアイスティーをごくごく飲みながら、小一時間、人間交差点を読む。刑務所に入る男の「わし 馬鹿でショウ、死ぬことも思い付かずに ただ、生きとったんだわ」というセリフに手が止まった。店を出た。旅行なのだから、有効に時間を使うべきなのだが、ついつい漫画を読んでしまうことがある。夜中に食べるカップラーメンが美味しいような感じで、旅先の喫茶店の漫画は面白いのだ。
傘をささなくてもギリギリ大丈夫なくらいの雨量になっていた。旅行先に傘を持って行くことほどだるいこともないので、今日も傘なしである。雨に濡れようとも、傘のない自由を!
茂った草の合間の紫陽花がうなだれているように見える。
だんだんと雨があがっていく。自由を愛する傘買わない派の勝利である。盛岡で一番有名な建築、旧岩手銀行に寄ってみた。東京駅に似ている。調べてみたらどちらも辰野金吾という人が設計したらしい。なかなか立派だ。
入ってみると、がらんとしていた。こんなに立派なのに、全然人がいない。歩くと床を叩いて、自分の足音がかつーんかつーんと響く。入り口で施設のスタッフの人が軽く説明をしてくれた。椅子に座ってしばしゆっくりする。盛岡はゆったりしていて忙しなさがないのがよい。
酒を注ぐ老婆のうつくしき指先、平興商店
盛岡に行くにあたって、もうひとつ行ってみたい店があった。平興商店、いわゆる角打ちの店だ。東北といえば、日本酒である。昼だからと言って、これは飲まない手はない。
はいると、女将が「いらっしゃい、どこでもいいですよ〜」と言って迎えてくれた。かなり高齢のように見え、もし自分が万が一女将にコロナをうつそうものなら大変なことなので、一番遠い位置にある席に座る。何だったら、体が半分外に出ているような感じだった。女将は奥の方でなにかごそごそとやっていた。大きな冷蔵庫が目の前にあったので、これくださいと平井六右衛門の稲波というお酒を頼んだ。
しゅぽんと栓を抜き、鷹揚な手つきで酒を注いでくれる。少し色味のついた酒がとろとろとグラスに注がれていく。
この美しき表面張力。一年近く前のことなのでどんな味だったか忘れてしまった...不思議なもので、味は忘れてしまっても、女将が酒をついでくれたシーンは今でも思い出すことができる。ブログを読んでくれている人たちは、こいつはやたらと飲食について書いているなと思われるだろうが、実際には、こんなことばかり脳に蓄積されていく。
雨の湿度に混じって、店先のベコニアが甘いねっとりとした香りを漂わせていた。よくみる花だけど、近くにいるとこんなによく匂いを感じるのだなと思った。この香りだけで酒が飲める。プランターに植えられた野ざらしの花の香りで酒を飲むというのも何か新しいステージに突入した感じがある。
「どこからいらっしゃったんですか?」
「埼玉から来たんです」
「あらまあ、遠いところから、ゆっくりしていってくださいね」
「こういう角打ちみたいなお店で飲んでみたかったんですよね」
「あら、そうなんですか。昔はもっとお店があったんですけどね、最近だとうちと鍵屋さんくらいかね」と言って女将さんは盛岡市内のマップを持って来て、市内のことを色々と教えてくれた。
車が店の前を通ると道路に薄く貼った雨の膜が弾けた。そんな光景を眺めながら酒を飲んだ。女将さんがまた来てくださいねと見送ってくれた。
誰もいない、もりおか歴史文化館へ
雨が降っているからなのか、なんなのか、とにかく人の出が少ない。歴史文化館も、そこそこ広いのに、僕以外に、地元の高校生が二人くらい歩いているだけという状態だった。街がどのように形成されて来たのかということと、盛岡の祭りについての展示がメインだ。かなり綺麗で、展示もわりと費用がかかっていそうだった。
祭り関連の展示はかなり迫力があった。制服の高校生が一人、ぼーっと人形を眺めていた。
川辺でコーヒーを飲む
すこし休むかと、中津川のへりにある喫茶ふかくさに行ってみることにした。雨は止んでいたのだけど、川が近いのもあるのか、ものすごい湿度だった。クーラーというほどではないかな?という微妙な季節だったので、とにかくすべてがじとーっとしていた。
店主が扇風機を回してくれる。窓からゆるーく風が入ってくる。平興商店のお婆さんがくれた仙台マップ的なものでぱたぱたと仰ぐ。この喫茶店は、作家のくどうれいんさんがツイートしていて、行ってみたいなと思っていたのだ。薄暗く、誰もいないので快適だ。今日、盛岡には人がいないのだろうか...
暑くなって来たので、アイスコーヒーがうまい。小一時間ゆっくりして店を出た。
てるてる坊主の祈りも虚しく、外は再び雨だった。雨が、ちょっと歩くのもだるいなというくらいになってしまったので、いったんホテルに戻ることにした。
ホテルで少し寝て、起きると雨は止んでいた。完璧である。旅行先で、一番良いのは晴れていることだけれど、雨上がりの夜というのも、実はなかなかよい。雨があがった開放感と、濡れた街が街灯によって照らされて光るのがなんとも心地よいのだ。おまけに人通りも減って、飲食店にも入りやすい。
白龍じゃじゃ麺、スープを注ぎちーたんたん
すこし歩いて、じゃじゃ麺をたべに白龍に向かった。盛岡と言えば、冷麺、わんこそば、そしてじゃじゃ麺らしいのだ。
旅行前、盛岡出身の知り合いに、実は今度、盛岡に行くんですよ〜と言ったら、何しに行くんですか、あんな何もないところと失笑され、じゃじゃ麺は実はぜんぜん美味しくないんですよ、うちの妻も全然好きじゃないんですと言われた。この場合、実は地元の人ほど食べていなかったりして意外と美味しい、もしくは、言葉通り単純においしくないという可能性がある。なにはともあれ、観光客である所の私は何でも名物は食べてみたいのだ。
じゃじゃ麺がやって来た。店は雨の影響かかなり空いていた。
赤い切れ端が皿に添えられていて、お、トマトか、ちょっと口をさっぱりさせたいなと思って、勢いよくかじったら、実はこれが紅生姜だった。しかもよりによって結構味と酸味が強いタイプである。本当に何の疑いもなくトマトと確定して食べたので脳がびっくりしてして体も思わず上体がふっと起き上がった。こんな四角い板たみたいな形をしているタイプの紅生姜があったとは......
いきなりの罠に驚嘆したが、心を落ち着けじゃじゃ麺に対峙する。麺が適度な太さでいい感じだ。混ぜて食べるものらしいので、ぐるぐると混ぜてみる。隣に座っている人の見様見真似で、ラー油をかける。うまそうである!つややかな麺を、きゅうりと一緒に持ち上げ食べる。持ち上げられた麺というのは、何とも直感的で蠱惑的である。ググッと食べる。うーん、しかし、まずくはないが、おいしい!という感じではない。
盛岡出身の知人の言は正しかったようである。しょっぱくて味が単調な感じがする。これはもう食べなくてもいいかな...盛岡には屈指の名物冷麺があるしな...という感じがした。
しかし、旅行後しばらくして、Twitterをみていたらくどうれいんさんのツイートがリツイートされて来た。どうやら僕のじゃじゃ麺認識は一面的であるということを知った。
じゃじゃ麺とは 盛岡のソウルフードでありジャージャー麺とは違う 平たいうどんのような麺と肉味噌ときゅうりとおろし生姜と紅生姜が基本で、各々の好みでにんにくや塩胡椒や辣油やお酢を入れて味わうため、三度食べないと自分の好みのうまさがわからないと言われている 三度食べると沼にはまる
— rain (@0incook) 2019年1月9日
じゃじゃ麺を判断するには、まず、三回食べなくてはならないらしいのである。じゃじゃ麺は、提供されて完成ではなく、調味料の巧みな調整によって、自らの手によって完成を見るものだったのである。たしかに、僕はラー油しかかけなかったので、やたら味が濃く感じてしまったのかもしれない。この状態では、まだ、じゃじゃ麺の深淵にたどり着けていない可能性が高い。
じゃじゃ麺は、食べ終わった後、卵を割って、鳥だしのスープを足してもらい、ちーたんたんなる状態にして食べるものらしい。鈍臭いので、卵を割ろうとしたらつるっと床に落としてしまい生卵をぐちゃぐちゃにしてしまった。
床に広がった卵を呆然と見ていたら、店員さんが、もう一つ使っていいですよと言ってくれた。優しさである。べちょべちょの卵を掃除をして、スープを入れてもらった。これは美味しかった。寒い時に食べたりしたら、これはまた最高だろうなと思った。総じてじゃじゃ麺は一見では理解不能の深さがある可能性があるので、盛岡には少なくともあと2回くる必要が出て来てしまった。
盛岡のバイキングがあざみを踏みつける
ホテルからの帰り道、バロンといういかした看板のバーがあるのを見つけた。ネットで検索してみると、ここのあたりでは最も古いバーであるらしいことが分かった。古いバーに行くと、街にまつわる色々な話が聞けて楽しいことが多いので、入ってみることにした。
店には、誰もいなかった。コロナもあるのだろうと思うのだけど、夜でも盛岡は人がとても少ない。老マスターがくるっと振り返り、どうぞと言った。
「何にしますか」
「好きな銘柄ある?」
「じゃあ、オールドパーで」棚にあったものから適当に見繕ってお願いをした。
老マスターは、腰を痛めているらしく、基本的に座っていて、オーダーをすると、ゆっくりゆっくり歩いて瓶をつかみ、ウイスキーを割ってくれた。座っているときは、ニコニコしているのだが、グラスを持つと顔がきゅっとしまり、目を細めて真剣な調子でソーダを注いでくれた。
2杯目は、マティーニを頼んだ。老マスターも調子が乗って来たのか、盛岡市内の店のあんな話やこんな話を教えてくれた。街には栄枯盛衰があるようである。あまり書くべきではないようなことに思えるので、内容は省略する......
「嫌いな酒ある?」と老マスターが聞いてきた。
「いや、特にないです!」
「じゃあ、オリジナルカクテルでもいい?」と言って、老マスターは、赤いカクテル を作ってくれた。アブサンが入っているような香りがした。これはね、バイキングがあざみを踏みつける様をイメージして作ったんだよとすこし照れ臭そうに教えてくれた。
つまみをぼりぼり食べながら、カクテルを飲み、明日はどうしようとか、ああ、会社行きたくないなとか、もっとより北に行きたい気分になってきたなとか、取り止めもないことを思った。福島からやってきたという常連さんが来たので店を出た。よい夜になった。
福田パンのいわて牛焼肉サンドうまい
朝、起きた。相変わらずの曇天である。ホテルをチェックアウトして、朝ごはんを調達しに向かう。福田パンというコッペパン屋が盛岡民にかなり人気であるらしいと聞きつけ、行ってみることにした。
メニューが壁に貼ってあるのだけど、あまりにもたくさんあるので、困ってしまった。朝にもかかわらず、レジ前にはすでに四人くらい並んでいた。う〜んベタだけど卵サンドとか美味しそうだよな、しかし、ツナもよいなと待ちながら色々考えていたのけど、旅行者なので、とりあえず地元のものっぽいものを食べてみようということで、いわて牛サンドなるものを頼んでみることにした。
ガラス越しに作っているのが見えるので、腹の減りが加速していく。店の前のベンチに座って食べることにした。思ったよりかなりデカかった。さっきまで曇っていたのに、店を出た途端に雨が降り始めた。この二日間あまりにも天候が不安定である。
これが、めちゃくちゃおいしかった。食べる前は、朝ごはんにしてはデカすぎでは、と思ったのだけど、食べ始めると、ふわふわのパンがまず美味いし、肉も良い感じの味付けで、パンに旨味が染み込み、なんともジャンクフード!という感じでたまらないのだ。雨に晒されながら黙々と食べる。朝ごはんでお腹いっぱいになった、本当に来てよかった...と思った。
盛岡と言えば、宮沢賢治ということで、注文の多い料理店を出版した光原社に行ってみることに。ちょっとした工芸品が売られていて、なるほどと眺める。イカした南部鉄器があって、めちゃかっこいいじゃん...と思ったのだけど、なかなかのお値段なのと、これをリュックに入れて持って帰るのは酔狂すぎると買うのを思いとどまる。
宮沢賢治の資料の展示などを眺める。むかし、春と修羅を読んだときは、よいなと思った記憶があるが、宮沢賢治に何か特別強い思い入れがあるということではないので、なるほどという感じである。
施設内の喫茶店で茶を飲む。
あふれんばかりの牛乳瓶入りウニを食べてしまう
喫茶店を出ると、雨があがっていた。
昨日、街を歩いていて、ウニ丼やってますという店を見つけていたので行ってみようかなと思ったのだが、その店は、臨時休業で、行くあてを無くしてしまった。あ〜残念だなあと立ち尽くしていると、雨が降って来た。もう、あと少しで帰るのに、傘を買うのも馬鹿らしいので、雨宿りにスーパーに入る。
旅行先でスーパーを見るのは結構楽しい。その土地でしか見ない練り物とか、野菜とかが並んでいるのをみると、日本もそれなりに多様なんだなと思う。店内をぶらぶら歩く。そういえば、じゃじゃ麺の話をしていた盛岡出身の知人が「盛岡では瓶に積められたウニが売っていて、それが美味しくて、東京に来てからは、ミョウバン臭くてウニが食べられないのだ」と言っていたことを思い出した。
鮮魚コーナーに行ってみると、確かに普段鮮魚売り場では見ない牛乳瓶が氷の上にゴロゴロと転がっていた。こんな量のウニ食べることなかなかないよなという量が瓶に詰まっている。なんとも不思議な光景だ。
内陸の地に住む人間には海辺の街というの豊かさは、羨ましさがある。いつか一回海辺にすみたいものだなあと思う。真剣な眼差しで、ウニの色合いが良さそうのなものを選んだ。
失われたウニ丼を再現するため総菜コーナーに行き、米を買う。しかし、米とウニだけでは確実に途中飽きるだろうなと思い、野菜コーナーに戻り大葉を買って、鮮魚コーナーでわさびと謎にかつおの叩きのたれを買ってみた。
スーパーを出ると雨が止んでいた。空模様が不安定すぎる。スーパーの真裏が公園だったので、そこで食べることにした。公園で、一人でお手製のウニ丼を食べている奴がいたら怪しすぎるし、なんだったら通報されかねない気がしたので、誰もいないことを祈った。
運良く誰もいなかった。
ベンチに座り、準備を開始する。
米の上にウニを載せると結構えげつない量で、米5:ウニ5くらいのとんでもないうに丼が完成した。ウニを箸で触ると、ぷるっぷるである。変なエグミがなく、程よい甘みがあっておいしい。カツオのタレをかけると、酢飯で食べているような感じがして、悪くない感じなような気もしたが、普通に醤油の方が美味しいような気もした。
公園で一人、お手製うに丼を食べる。なにか、どこかいけないことをしているかのような感覚がある。大葉とわさびを買っておいて本当によかった。ウニの量があまりにも多いので、変化がないと食べ飽きるレベルである。正直、ひと瓶を二人で分けるくらいでもいいのかなと思ったくらいだ。あとはそうだ、海苔だな、そう、海苔があれば完璧であったなと思った。うに丼なる簡単なものでも、料理は料理であり、素材の構成によってうまくもまずくもなるものだなと思った。公園で一人雲がはけていく空の下で黙々と食べていると、全てのことがどうでも良いことのような気がしてきた。
もう雨は降らなそうだ。あっという間に帰宅の鉄道に乗る時間になっていた。