今夜はいやほい

きゃりーぱみゅぱみゅの「原宿いやほい」のいやほいとは何か考察するブログ

カレーの街、神保町のボンディ。ビーフカレーに載る梅干し問題。

神保町は、もっぱらカレーで有名である。しかし、その有名性によって、人気店では、軽く寄って夕飯食べるか〜ということができない状態になっている。カレーは基本的に食べたい!と思った瞬間に食べたいものであり、並ぶのもな...と思っていた。

 

そんな感じで、神保町の人気カレー屋ボンディに、何回か行ってみようと思ったことはあったのだけど、毎回、心がへし折れるくらい人が並んでいるので、店の前まで来ては、これは厳しいなと思い、カレーに辿りつくことがなかった。

 

そんな中、ある日のこと、暇を持て余して、神保町のあたりをうろうろしていて、18時くらいに、そろそろ帰るかと思ったのだけど、あ、カレーが食べたい気がするぞという欲求がどこからともなく湧き上がってきた。それはボンディの近くであった。僕は、今までの経験から、どうせ大変なことになっているだろうなあとも思ったのだけど、一応、店の前まで行ってみることにした。

 

 

店には、ぱっと見て、二十人くらいの客が並んでいた。見えないところにも人がいるようなのできっと、もっと人がいるのだろう。ああ、これである。なんでいつ来ても混んでいるんだ!と人気店に対して不当な憤りを沸き立たせ、困ったことだと、心の中において地団駄を踏んだ。しかし、考えてみると、今日はまだ18時である。仮に1時間並んでも19時なんだなと思った。

 

あれ、もしかして、多少並んでもいいのではないかという気持ちが現れた。このままだと、一生ボンディに行かないかもしれない。それはとても後悔しそうなことのように思われた。心の中の地団駄もおさまってきたので、僕はつらつらと並ぶ人々の後に、とりあえず加わってみることにしたのだ。

 

15分くらい待って、店のスタッフが先行して注文を聞きにやってきた。僕の後ろにいた、東京に観光に来たと思しきカップルが、これって何分くらい待つんですかと聞いた。スタッフは忙しなさそうに、たぶん1時間半くらいですかねと早口で答えた。

 

「ええっ」

 

「えええっ」

 

と美しい驚嘆を残し、後ろのカップルは去っていった。僕は、同じく、1時間半!?と心で叫び、これは待つべきなのか?と自問自答した。

 

列自体は多少進んでいた。カレーは回転が早いので、うわー全然動かないじゃん!という感じではなかった。まあ、しかし、もう、今日諦めたら、本当に一生行かないだろうなと思った。別に家に帰って何をするわけでもないから、今日はとことん待つぞと決心した。

 

僕はひたすら待った、かれこれ25分ほど待って、徐々に列は進み、階段部までやってきていた。問題があった。とにかく寒いということである。最近あったかい日もあったが、その日はやたらと寒かった。そして、ボンディはビルの2階なのだが、僕が今、待っている階段部は、なぜか下から吹き上げるようにして風が登ってきており、体温を確実かつ着実に持ち去っていくのだった。

 

そして、僕はあることに気がついた。神保町の古本屋で買った本を読んでいたのだけど、本というのはめちゃくちゃ冷たいということだ。あまりに冷たいので、僕は本を指先でちょこんと持ち、限りなく接地面を最小化していたのだけど、それでも本は鋭く冷たいので、指先はジンジンと痛みを持ち始めていた。僕は諦めて本をカバンにしまった。

 

神保町で古本を買い、カレーを待ちながら読書という文化的イメージは苛烈な修行的体験となっていった。風の吹き上げる階段で、微妙に薄着だった僕は寒い寒い寒い寒いと呻き、ほとんど虚無の領域に突入していた。

 

寒い寒い寒い寒いと心で300回くらい唱えたあたりで、突如一気に人がいなくなり、店まであと五人というところまで来た。店の明かりは洞窟の果ての出口がごとく異様に輝いているように見えた。

 

そして、ここで、一人のお客様いますかと声がかかった。来た!カウンターが一席空いているので先に入れるというのだ。

 

結果的に、僕は1時間半も待つことはなく、45分ほどで中に入ることができた。はっきり言って、1時間半待っていたら風をひいていただろう。たぶん、30分で入れますとか言って45分かかったりするとややこしいから、聞かれたら長めの時間で答えているのだなと思った。

 

席に着くと、注文はすでに数十分前にしていたので、すぐにビーフカレーがやってきた。米、カレーとじゃがいも、エスプレッソが順にやってきた。完成されていく目の前のテーブルに釘付けとなった。

 

 

カレー!!と僕は歓喜した。めちゃ寒のなか45分待っていたので、尋常ならざる嬉しさがあった。最高だ...うまそうだ....待った甲斐があった...ああ...と感情がカレーに高速に反応していた。

 

 

米にはチーズがかかっている。カレーを手に取って、かけていく。肉がたくさん入っていてぼとぼとと落ちていく。

 

 

かわいい器だ。カレーは食べたい瞬間に食べたい、それは間違いなく確かなことなのだが、それが故に待たされたことによって、通常時の倍くらいおいしそうに感じている。

 

牛肉、カレー、米をスプーンに載せて食べる。カレーに甘酸っぱい旨味が凝縮していて、口の中でぱっと広がる。スパイスも良い香りだ。噛むと肉の厳かな旨味が広がって、米と混ざり合っていく。なるほど、これは行列ができるわけだわ...と思った。

 

 

一緒についていたジャガイモを食べる。神保町ではカレー屋でジャガイモが別添えで出てくることが多い。学生街、神保町で、学生たちが満腹になるように、というような意図があったと聞いたことがある。口の中にバターが広がっていく。この後にカレーを食べると、口の中に残ったバターの膜とカレーがいい感じに混じり合って、少し違った印象になった。

 

 

僕はここでスプーンが止まった。これどうやって食べ進めればよいのだと。よくみると、梅干し、しかもカリカリのやつがいるのである。

 

 

ついでに注文していたエスプレッソもある。ボンディは”カレーとエスプレッソの店”ということらしいので、これは頼まねばならないと思ったのだ。

 

最近、イナダシュンスケ氏の本で、崎陽軒シウマイ弁当をどのように食べれば、一番弁当を楽しむことができるのかということについての精緻な文章を読んだばかりだったので、僕もこの偉大なボンディカレーをどのような順序で食べればより良いのかということについて悩んでしまったのだ... カレー、エスプレッソ、じゃがバター、梅干しである。

 

 

 

この、それぞれが全く独立し、際立って個性的なものたちをどのように食べ進めればよいのか... 僕は機能停止してしまった。

 

インド系のカレーであればおおらかにすべてを包みこんでいくような感じがするし、実際付け合わせに、酸っぱいやつがついてくることがある。しかし、ボンディカレーは欧風なのだ。

 

とりあえずカレーを食べ進める。そして、ちまちまじゃがバターを食べる。まあ、ここについてはよい。しかし、カプチーノと梅干しをどこで挟めば良いのか...

 

カレーを8割くらい食べたところで、梅干しを食べてみることにした。洋食ワールドから、突如、日の丸弁当ワールドに突入した。なんというか、カオスである。エスプレッソをのんだ。今度はイタリアワールドへ意識が飛ばされた。

 

 

カレーに戻った。カレーは大変美味しい。しかし僕は、このボンディカレーをどのように食べれば最も美味しく食べられるのか、食べれば食べるほど全く分からなくなってしまったのだった。

 

最後に残ったエスプレッソを飲んだ。カレーの余韻は完璧に消えて、鮮烈な苦味が残った。ボンディ...なんて難解な店なのだろう。また来て、速やかに正解を検討しなければならないと思った。